8月14日から25日まで東京・帝国劇場で『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』が開催されます。本公演は東宝ミュージカルの歴史をショー形式で披露するコンサート。公演期間を3つに分け、それぞれ出演者を変えて上演されます。

この豪華な公演を演出するのが小林香さん。帝国劇場でのミュージカルコンサートの演出を女性が務めるのは史上初。大仕事を前にした小林さんのこれまでの人生や人となり、そして公演について話を伺ってきました。

 

■私の人生を変えた3人

 

―まずは小林さんのこれまでについて。京都の高校生だった小林さんはオーケストラの立ち上げや運営などをされていたそうですが、そこから何をきっかけにミュージカルの世界にハマったんですか?
「幼い頃から映画が大好きで、そのなかでもチャップリンの『街の灯』を初めて観た時、子ども心にとても感激しました。チャップリンの作品は歌あり、音楽あり、パフォーマンスありと、ミュージカルに近いところがあるので、その後、祖父母にビデオデッキを買ってもらい、ミュージカル映画を片っ端からレンタルして観ていました。やがて、ミュージカル映画を作る映画監督になりたい!!と思うようになりました。でもまだ当時は生のミュージカルには興味がなかったんです。その後、インターンシップでニューヨークに行く機会があり、そこで初めてブロードウェイのミュージカルを観ました。とりあえず有名な『ミス・サイゴン』や『ライオンキング』などを観ました。それがきっかけでオーケストラのライブ・パフォーマンスからミュージカルのライブ・パフォーマンスに心奪われ、生のミュージカルに携わる仕事につきたい、と思ったんです。それが大学3年生の頃。結構遅い目覚めでしたね」

 

―社会人になる一歩手前での目覚めだったんですね!!
「映画作りを学ぶためにニューヨークに行きたいと言っていたのに、ある日突然“東京に行きます!!”って。両親は相当ビックリしたと思います。映画映画と言ってた娘がいきなりミュージカルですから(笑)。で、とりあえず東京に出ないと、って思っていたので、東京に出てから謝珠栄先生に手紙を書いて弟子にしていただきました。実は、演劇はダサいものだと思い込んでいて。高校時代の親友が演劇部だったのですが、“素人がやる演劇なんてダサイに決まっている!!”と決めつけて、一度も観に行った事がなかったんです。これって小学生の頃、学校で有無を言わさず観せられた演劇の質があまり良くなかったんだと思うんです。どんな子どもでもしっかり作り込んだものでないと文字通り【子ども騙し】なイメージしか残らないんですよ。そんな経験もあって、サンリオピューロランドでミュージカルの演出を務めた時は、子どもはもちろん大人も楽しめるように努めました。観に来てくれた子どもにとって初めての演劇になるかもしれないですから絶対手を抜かない。何故なら、もし子どもの時、良い作品を観る事が出来ていたら、もっと早くこっちの道を歩いていたかもしれないって思いがあるからです」

―謝先生から学んだ事でいちばん心に残っている事はなんですか?
「“絶対手を抜かない”ということです。先生はまさに命を削って作品を作っていらしたんです。小さな劇団で、少ない人数のスタッフで限られた予算内でやっていましたが、それでも決して妥協しないでやっている様を間近で見ていました」

 

―謝先生から教えを受けた後、東宝に入社されたそうですが。
「東宝には演出家ではなく、プロデューサーのアシスタントの立場で入りました。小さな劇団の演出家の助手として素手のものづくりに関わった後、東宝のプロデューサーという演劇界を俯瞰で見ている人の助手につく……どちらの視点も大事だなと思ってチャレンジしました」

 

―演出家としていちばん最初に手掛けた作品は?
「コンサートはすでに数多く手掛けていたんですが、舞台作品となるとSHOW-ism 『DRAMATICA/ROMANTICA』(2010年上演)でしょうか。その時は自分がプロデュースも兼ねたので死ぬほど働いた記憶がありますが、メンバーは自分と近しいところがあってやりやすかったんです」

 

―ではご自身にとっての自信作は?
「『Indigo Tomato』(2018年、2019年上演)でしょうか。オリジナルでゼロから作りましたし、お客さんを限定しないという意味で、どの国で、どの時代で観ていただいても伝わる物語を作れたな、良い作品が出来たなと思っています。あとはSHOW-ismⅦ『ピトレスク』(2014年上演)でしょうか。初めて歴史を紐解き未来につながる作品を作ったので自分にとって大きな新たな視点を得た気がします」

 

―そして、ここまでの人生で、特にご自身に影響を与えた人は?
「坂東玉三郎さんです。自分にとってとても大きな存在です。数年前に出会い、玉三郎さんのコンサートの演出をやらせていただきましたが、玉三郎さんも演出家なのでクリエイションについて何度となく話をさせていただきました。ある時、玉三郎さんは“演出家は演者や関わる人たちの【裏】の人生も演出してあげないといけないんだよ”とおっしゃったんです。仕事をしていない部分の事、例えば休憩時間をしっかりとるとか。休憩時間が短いと、仮に役者は休めても、スタッフはあちこち走り回っているので休憩が取れない。そんな状況を予測してスタッフにも休む時間をとる、そうすることで休憩明けの仕事のクオリティがあがるし心も良い感じになる、と。そういう身近な例を具体的な言葉で言ってくださる人はいなかったんです。玉三郎さんとの会話で“あっ!!”と思った時にすぐメモをとっておくんです。以前、熊本の八千代座で公演があり、スタッフが皆バタバタしていた時に“蛍を観に行かない?”って声をかけてくださった事がありました。どんなにバタついていても玉三郎さんは心を整える時間を大事になさっているんです。で、“蛍を観に行かない?”の一言で私もハッと我に帰る。大事なのは心の余裕であり、心を使って仕事をする事だなと気づかせてくださいましたね」

 

■後に続く人たちのためにも失敗できない『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』

 

―さて、そんな経験を積んできた小林さんが今回『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』を手掛ける事となりました。意外な話ですが、帝国劇場で東宝ミュージカルを演出をされた女性はなかなかいないそうですね。
「石井ふく子さんが舞台『花の巴里の橘や』の演出などを手掛け、リンダ・ヘイバーマンさんがミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』の振付と演出をして以来3人目。日本のミュージカル系の演出家では初めてのようです。私が初めてと聞いて当初は”嘘でしょ!?”と思いましたが、確かに女性演出家は帝劇でほとんどやってないなと。1911年に開場してから2020年になるまで日本人女性のミュージカル演出家が帝劇で仕事をしてなかったのかと驚きでした。ほんの少し前まで商業演劇界はとても男性社会だったんです。日本のミュージカル界の殿堂とも言える場所で女性が演出を務める……後に続く女性演出家のためにもこれは失敗出来ないなと感じますね。謝先生が、女性演出家としての道を切り拓いてこられたように、私も後に続く人たちに道を切り拓いていかないと」

 

―今回の出演者は本当に豪華ですね!!
「どこを見てもスターばかりで。全期間出演する人が3名いらっしゃるんです。瀬奈じゅんさんと朝夏まなとさん、そして田代万里生さん。どんな球を投げても必ず打ち返してくれる方々だと思っています。彼らがいる事でコンサートの“軸”が安定するでしょうね」

 

■役者のプロデュースはできるが自分のプロデュースは……(笑)

 

―話変わって、小林さんの普段のファッションのこだわりについても聞いてみたいと思いますが、いかがですか?

「全然ないです。30代後半からどうでもよくなっちゃって……人のプロデュースはしっかりするんですが、自分のプロデュースは本当に苦手で。無頓着なんです。作品を作っている時は頭がそっちに集中しすぎて自分の事はまったく考えられないんです。むしろ演者を綺麗に見せる事で満足しているのかもしれないです(笑)。今付けている時計も文字盤が大きくてハッキリ見えるからこれにしただけで。稽古中に集中し過ぎて時間が分からなくなってしまう事があって。でも時計をチラ見するのは演者に対して失礼だと思うので、それがバレないための対策なんですよ(笑)」

―お子さんが2歳10ヶ月。お母さんがどんな仕事をしているか分かっているようですか?
「実は先日1ヶ月くらい仕事が立て込み過ぎて実家に息子を預けていたんですが、そこで配信されていた私の舞台を観たらしく、数週間ぶりに再会して寝かしつけていた時に“お母さんの舞台、好き!!”と言ってくれて!!舞台という言葉を発したのも初めてでビックリし、また感動しました。こんなに嬉しいものなんだなと思いましたね」

 

―そんな息子さんが遠い将来、お母さんと同じ道を選びたいと言ってきたらどう言葉をかけますか(笑)?
「いやあ(笑)。ものすごく客観的に判断して厳しい言葉をかけるでしょうね。ましてや俳優になりたいなんて言おうものならかなり厳しい事を言うと思います。私の目の前にいる俳優さんたちは選ばれし方々であり、本当に努力出来る方々なので。なかなかそこのレベルにはたどり着けないと思います。“あなたがやりたいならやってみれば?”なんて軽くは言えないです。できれば違う道を選んで欲しいですね(笑)」

【profile】

京都市出身。演出家・脚本家・作詞家・訳詞家。
数々の海外ミュージカルの演出を手掛け、演出・脚本・作詞を一手に任う「オリジナルミュージカル」と、日本では数が少ない「ショー」の創作も得意としている。
国民文化祭・京都2011では天皇陛下の御前で作・演出した音楽劇「絹糸幻想」を披露、比叡山延暦寺の声明など京都の伝統文化を巧みに取り入れた演出が話題に。
2015年、サンリオピューロランド25周年に脚本・演出を務めた「ミラクルギフトパレード」は、ピューロランドの集客を上げることに貢献し今でも観劇することができるなど、演劇界以外でも確かな評価を得ている。
近年手掛けたミュージカル作品に、『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』(演出)、『Indigo Tomato』(作・演出)、『Little Women -若草物語-』’19(演出)、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレートコメット・オブ・1812』(演出・訳詞)など。シアタークリエのSHOW-ism全作の作・演出を務める。

 

【公演概要】
■タイトル
『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』
■日程・会場
2020年8月14日(金)~8月25日(火) 帝国劇場
■構成・演出 小林香
■音楽監督・編曲・指揮 甲斐正人
■振付 原田薫、麻咲梨乃、港ゆりか、木下奈津子
■出演(五十音順)
MC:井上芳雄(ProgramA・B)、山崎育三郎(ProgramC)
ProgramAキャスト
朝夏まなと、生田絵梨花、一路真輝、今井清隆、和音美桜、加藤和樹、城田優、瀬奈じゅん、田代万里生、新妻聖子、花總まり、古川雄大、森公美子
ProgramBキャスト
朝夏まなと、海宝直人、加藤和樹、笹本玲奈、涼風真世、瀬奈じゅん、田代万里生、中川晃教、花總まり、平原綾香、福井晶一、藤岡正明
ProgramCキャスト
朝夏まなと、石井一孝、一路真輝、佐藤隆紀、島田歌穂、瀬奈じゅん、ソニン、田代万里生、平野綾
スペシャルゲスト:市村正親(ProgramA、17日公演のみ)、大地真央(ProgramC)
■料金 S席15,000円 A席10,500円 B席5,000円

※配信上演※
『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』配信上演
■日程
Program A
8月14日(金)18:00開演の部/8月17日(月)18:00開演の部
Program B
8月19日(水)18:00開演の部/8月22日(土)18:00開演の部
Program C
8月25日(火)13:00開演の部
■配信場所 イープラス「Streaming+」
■配信視聴券 3,800円(税込)

■公式ホームページ https://www.tohostage.com/tmc/

(2020,08,14)
photo:Hirofumi Miyata/hair&make-up:Manami Kiuchi(Otie)/interview&text:Saki Komura

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