来たる2021年1月、東京・歌舞伎座にて歌舞伎座1月公演『壽初春大歌舞伎』が開催される事が決まりました。

気になる演目ですが、松本幸四郎さん、幸四郎さんの父・松本白鸚さん、そして幸四郎の息子・市川染五郎さんの親子孫三代が揃い踏みとなる「菅原伝授手習鑑 車引(すがわらでんじゅてならいかがみ くるまびき)」、そして市川猿之助さんによる澤瀉屋のお家芸「猿翁十種」のひとつ、舞踊「悪太郎」が披露されます。

11月29日、本公演についての取材が都内で行われ、幸四郎さんと猿之助さんが出席して作品などについて語ってくださいました。

写真左から市川猿之助さん、松本幸四郎 さん

 

コロナ禍で歌舞伎がなかなか上演されない日々が続く中、ようやく8月に公演が再開された歌舞伎。

幸四郎さんは「11月から筋書が発売されるようになり、イヤホンガイドの貸出が再開されたりはしていますが、それでも本当の意味での再開はまだしていないという認識です。今はお芝居を観ていただく事に特化した形だと思っています。これに加えて売店でこれまでどおりに買い物をして幕間にくつろぐ事や、大向こうさんの声がかかるという事が今この状態でどうしたらかなえられるのか、そういう点でも“全員”で再開されていませんから」と状況の厳しさを口にしていました。

 

猿之助さんは「お客さんの中には“私は歌舞伎を観にいきたいんですが、勤務先からは外に出ちゃいけないというお触れがあるので行けません”という声もあります。そういう意味でもまだ再開ではなく非常時での上演ですね」と幸四郎さんの言葉に同意しつつも「とはいえ11月の演目で蜘蛛の糸を撒くことが出来、いつもなら当たり前なのですが“これができるようになったんだ”と。小さな一歩かもしれませんが自分にとっては大きな進歩だと思っています」と将来に向けた手応えを語っていました。

 

今回上演される「車引」と「悪太郎」について、幸四郎さんは親子孫3代で出演できる事を「ありがたいですね。しかも同じ演目に一緒に出られるということは」と笑顔を浮かべ、演目の魅力については「力強さ。歌舞伎をやっている感がいちばん強いし、ご覧になる方もこれが歌舞伎よね、と思ってくださる、歌舞伎を観た事がない人であってもそう思うものだと思います。台詞やボリュームなどはすべてアナログで自分の力だけでやる事」と説明しました。

また親子孫で3つ子の兄弟を演じるという歌舞伎ならではの妙については「息子がどこまで頑張れるかですね。3ヶ月続けて出演するのは初めての事ですから。持っているもの以上を出してもらいたい」と言った後で「彼(染五郎さん)は嬉しいと驚いていました。そんなに感情を表に出さないのですが(笑)、嬉しそうな顔で稽古をしていますよ」と親としての顔もちらり。

 

一方、猿之助さんは「皆こんな世の中じゃ笑いたいじゃないですか。で、よそ様ができる事はよそ様にお任せし、うち(澤瀉屋)にしかできない「悪太郎」を選びました」と語りました。

また「悪太郎」という演目については「曾祖父(初代市川猿翁さん)の魅力に100%あてて書かれた作品なので振りが面白いとかそういうものではないんです。曾祖父が立っているだけでおかしいんです。例えるなら志村けんさんです(笑)。それをやるからには自分なりのおかしさ‥‥‥これは三谷幸喜さんから言われたんですが、そっちの方向に行くしかないなと。何も考えずにやるしかないなと思っています」と意気込みを見せていました。

 

コロナ禍で興行の形が変わってきた昨今について問われると、「明日(上演が)なくなるかもしれない中でやっています。元に戻る事はないでしょうから、今(歌舞伎を)なくさないようにするために力を注ぎたい」と幸四郎さんが述べると、猿之助さんも「防災訓練だと思うしかないかな。“感染症警報が出ました。明日から警戒態勢で”と言われても何も焦る事もなくそれに応じた興行に変わり、楽屋もソーシャルディスタンスとなる。世の中すべてそうなってほしいですね。大きな地震を経験した日本は他の国より対応が速いじゃないですか。歌舞伎も普通に切り替えるようになればいい。でもその段階に行くためには今がその転換期。必死で先人から受け継いだたくさんの荷物を一つ残らず次の世代に持っていくのが僕らの世代の役目。その荷物を片付ける‥‥‥取捨選択するのは次の世代の役目だと思うんです。だからここ(猿之助さん、幸四郎さん)の世代がしっかりしていないとね」と語っていました。

ただ、猿之助さんが「映画『タイタニック』でいうならうちらがタイタニックと共に沈んでいく側で…」とたとえ話をすると「えっ‥‥‥僕は(沈みたくない)」と幸四郎さんが本音を口にしたので、二人大笑いとなってお開きとなりました。

『壽初春大歌舞伎』は2021年1月から東京・歌舞伎座にて開催されます。

 

【公演概要】

■タイトル 『壽初春大歌舞伎』

■日程・会場 2021年1月2日(土)〜1月27日(水) 歌舞伎座

■公式ホームページ https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/698/

(2020,12,02)

photo:Hirofumi Miyata/text:Saki Komura

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