2021年1月、東京・下北沢の本多劇場にて、マキノノゾミさん作・演出の舞台『東京原子核クラブ』が上演されます。

『東京原子核クラブ』は1997年初演、マキノさんが読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した代表作。その後、PARCO劇場、俳優座劇場などでも上演され、今回はマキノさん自身が初演以来22年ぶりに演出も手がける事になりました。

舞台は、昭和初期。風変りな住人が集う東京・本郷の下宿屋「平和館」。理化学研究所に勤務する若き原子物理学者・友田晋一郎は周りのレベルの高さに自信を失っていく。そんな中、平和館に訪れた海軍中尉・狩野は理研の研究で新型爆弾がつくれるのではないかと思いつき……。実在の人物をモデルに、時代の荒波の中、闊達に生きる若者たちを描いた群像劇。

本作で主人公・友田晋一朗役を演じるのは水田航生さん。『ウエスト・サイド・ストーリー』『怪人と探偵』など話題のミュージカル作品への出演で注目を集める水田さんの本作への想いとは?

 

―『東京原子核クラブ』に出演が決まった時の率直なお気持ちは?

「めちゃくちゃ嬉しかったです。マキノさんともう一度ご一緒出来る事、またマキノさんの代表作にんでいただけた事が嬉しく、そして身が引き締まる思いです」

 

―マキノさんとは『道玄坂奇譚』以来のお仕事ですよね。前回ご一緒した時にマキノさんから言われ印象に残っている事はありますか?

「本番中にトラブルがひとつあって、ステージ上では僕がひとりの状態になり、何とかうまく乗り切ったんですが、でも自分では何もできなかったという後悔の念があって。その幕間にマキノさんが来られた時に、心が一気に楽になる言葉を言ってくれて、そのポジティブな姿が凄くカッコよく見えたんです。大きな背中が去っていく世田谷パブリックシアターの廊下の光景は今も忘れる事ができませんね。とはいえ、すべてが大きい訳ではなく、凄く細かく演出を付けていただいて。笑いの間はこうしたほうがいいとか的確に言ってくださる方なので、そんなマキノさんと5年ぶりにご一緒できることが楽しみでもあり、また5年間で僕がどれだけ成長したのかを見せられるかという不安もあり、今からドキドキしています」

 

―台本を読んだときの第一印象はいかがでしたか?

「“やった!ようやく関西弁が喋れる!!”って思いました(笑)。ようやく母国語を喋れる仕事が来たなって。関西弁で喋る仕事ってミュージカル『テニスの王子』の忍足謙也以来ですから!!しかもテニミュの関西弁って若干本来のものとは違うから、今回初めて流れるようなナチュラルな関西弁を話していいんだって思いましたね。ただ僕の関西弁マキノさんが思う関西弁と若干違うかもしれません。今回演じる友田は京都の人間で、僕も京都寄りの大阪出身なので多少は近しいアクセントになると思うんです。そして台本の中身についてですが、この友田という男は僕の兄貴に良く似ているんです。兄貴は京都大学で大学院まで行った理系の人。友田みたいに自分が思う事に集中したら他の事がまるで見えなくなってしまう性格とかがそっくりで、台本を読めば読むほど兄貴が頭のなかで動いている、という変な感触を抱いています(笑)。そんな兄貴をいちばん近くで見ていたので、友田に凄く親近感を持っていますし、自分がそんな人物を体現できるのか、楽しみですね。なにせ演じる上でのヒントがいろいろありそうですからね。物語の中である人物が自殺するかもって立てこもる場面で、“自分は新聞に載っている湯川秀樹さんの記事がずっと気になっていた、ごめんな”って言う台詞があるんですが、もうそれは完全に兄貴なんです。兄貴は“お前の常識は俺の常識とは違う。勝手にお前の常識に当てはめるな”ってよく言っていたんです。“でも一般的な常識はこっちで……”と反論すると“一般的って何?”って言うような人で、頑固だけど愚直なまでの素直さがあって。僕は兄貴とは真逆で社交的な性格だったので、要領よく兄弟の中ではフロントマンになってたんですが、僕には無い一面を持つ兄貴に憧れも持っていましたね」

 

―水田さんが抱いている友田のイメージとマキノさんが持っている友田のイメージとすり合わせが必要になりますね。

「ええ。そして2幕からは兄貴のイメージとは違う友田になるんです。留学していろいろな事を学んだ友田は自分がやってきた研究に対して疑問を持ちつつ、止められない2幕の友田が逆に兄貴じゃなくて僕が出来る友田になるんじゃないかなって。自分自身が役者をやる上で感じていた事や人間として感じた事を2幕の友田に反映できるんじゃないかなと思っています。ジレンマやわだかまりなどを表現する事ができそうな気がしているんです。でも僕が台本を読んだ限りでは友田はさまざまな事を淡々と捉えているけれど心の中では業火が燃え滾っている気がするんです。冷静に喋っている中でこの時代に生きた人たちの想いがにじみ出るくらいまで持っていけたら説得力が出る芝居になるのでは、と思っています」

 

―ところで、水田さんがこの仕事を志すきっかけは何だったんですか?

「僕はアミューズ第1回王子さまグランプリのファイナリスト、つまり王子なんです(笑)!!他薦で受けたオーディションに受かって!!それがきっかけで芸能界に入りました。元々ダンスをやっていてその頃はダンスで1番を取りたいと考えていたので、逆に役者はまったく考えていなかったんです。で、オーディションで初めて芝居をしたんです。エチュードで“友達と電話をしている最中に空から1万円札がたくさん降ってきて、落ちてきたお金を何に使うか”というお題でやったんです。中学生くらいの子たちは“このお金でお母さんに何か買ってあげよう”“欲しいサッカーボールを買おう”とか言っているなか、その時関西人の血が騒いだのか、“おっしゃ!!貯金したろ!!”ってバリバリ関西弁で飛ばしたんです(笑)。という訳で、お金を拾って役者を志したんです(大笑)」

 

―(笑)でも元々はダンサー志望だったのに、役者の道をいく事になったということはダンス以上に演じる事に何か魅力的なものを感じたのでは?

「いちばん最初にレッスンを受けたとき、エチュードが凄く楽しかったんです。自分で発想して演じるという事が楽しくて!!これはダンスをやっていたからだと思うのですが、自分で振りを考えたり、曲を自分で編集して繋いだり、という、自分で何かを生み出す事が好きなんだと思うんです。後、何かで人を笑かしたいという関西人の習慣もあって(笑)、何度も滑るんですが、滑り続ける中で“こうやると人は笑うんだ” “これがいいんだ” っていう事を知り、いろいろな情報がどんどん入ってくると、まるで自分のポケットにお菓子をどんどん詰め込んでいる気持ちになり……また、これが詰め込んでも詰め込んでもまだ入るという魅力満載の物、それが芝居だったんです。この前芝居の先生に“役者なら芝居に対する気持ちが片思いの気持ちだよ”って言われて凄くスッキリしたんです。追いかけても追いかけても手に入らないからいっそ嫌いになろうとするけどやっぱりあきらめきれない、ずっと考えてやっぱり好きだった、という気持ちと同じなんだなと。お芝居の方から水田航生が好きになるってことはないから(笑)これはやっぱり僕の片思いなんだなって思うんです。今もこの気持ちは変わらないですね。歳を重ねていろんな経験もしていますが、やっぱり好きなんだな、いっそ一周回って好きなままでいいじゃないかって思っています。単純に芝居が好き、舞台に立っているその空気感が好き、芝居をやっているときの心の高揚感が好き、かけがえのない、唯一無二な存在が芝居なんです。コロナ禍のステイホーム期間が明けて久しぶりに舞台に上がった時、その想いはより一層強く、そして純粋な想いになりましたね」

 

―ちなみに、ステイホーム期間中は何をしていましたか?

「Netflixをずっと観ていました(笑)。“3LDK”の平間(壮一さん)、植原(卓也さん)と“あれ、観た?”って連絡取り合ってましたね。料理しているかNetflix見ているか、という生活でした。それと昔の台本を読み返していましたね。結構量が多くなるので都度実家に送っていたんですが、その一部を再び送り返してもらったりしてね。『道玄坂奇譚』『マーキュリーファー』『金閣寺』という自分が当時凄く大変な想いをしながら稽古していて、それでも大好きな作品の台本を読み返してみたんです。台本の白いところがなくなるくらいたくさん書き込みをしていてね。果たして今の自分はこんなに書き込みをしているか、何を甘んじているんだと。決して怠けている訳ではないですが、一度原点に立ち返ってみようと想って、ステイホーム明けの『Defiled-ディファイルド-』では1p目から100p近くに役の感情などを書きこんでみたら、以前と咀嚼している事、役に落とし込む事が変わったので、やってみて良かったなと思っています」

 

―水田さんは大劇場でのグランドミュージカルから小劇場クラスの実験的な、異色の作品まで幅広く出演されているイメージがあるんです。ご自身ではどういう基準で作品を選ばれているんですか?

「いやいや、そんな選ぶなんて!!いただいたお仕事をひとつずつ演じようとしているだけなんです。しいていうならそんな僕に“今の水田ならこんな作品もできるんじゃないか?”とお仕事をもってきてくださるスタッフの方々のおかげですね。“こいつにこの仕事を投げたら面白くしてくれるんじゃないか”と思ってくださることで、僕自身も自分の可能性や伸び代をさらに広げることができますし。ああ、僕は生かされているなあって感じますね。またこんな人生は楽しいなとも思っているんです」

 

―さて、話変わって。水田さんの普段のファッションについてのこだわりは?

「ないです(即答。笑)。しいていうならブリティッシュファッション、例えばポール・スミスとかバーバリーといった綺麗目が好きですね。でも最近は稽古場に稽古着のまま行って稽古着のまま帰る日々を続けているので、ジャージがファッションになっています。せめてカッコいいジャージを着たいです。あと靴はアディダスが多いかなあ。ふらっと入った店先で見つけたコートがめっちゃ欲しくなった事があるんですが、優柔不断なのと関西人なのが影響してか、似たようなデザインでもっと安いものがあるんじゃないかめっちゃ探すんです。結局一番最初に見つけたお店に戻ってしまうんですけどね(笑)。その過程が僕には必要なので衝動買いができないんです。実物を見て試着して慎重に検討したい派なのでネットで服を買うこともできないんですよ(笑)。妥協して失敗するのが一番嫌なんです」

 

―これから水田航生はどこを目指していこうと思いますか?

「芝居への片想いは変わらないので、一途に想い続けていきたいですね。芝居に真摯に向き合っていきたいですし、目の前の事に全力を尽くしていきたいですね。それを続けていった後にふと振り返ってこんな人生を歩いてきたんだって思える自分でいたいです」

 

―最後に。上演を楽しみにしているお客さまにメッセージをお願いします。

「今コロナ禍で日常が大きく変わってしまった時代がくしくもこの作品の世界と重なっているように思えます。もちろん戦時中のような悲惨な事にはなっていませんが、それぞれの心の中で考えている事は結構近い状態なのでは、と。そういう想いを自分の中でもどんどん膨らませていきたいし、見ているお客さまについても決してこの話が対岸の火事ではない、現実的な作品である事、そしてそんな中で明るくたくましくポジティブに生きる人々の姿を感じていただきたいです」

 

【profile】

1990年12月20日生まれ。大阪府出身。O型。

2005年「第1回アミューズ王子様オーディション」グランプリ受賞。2007年デビュー。

近年の主な舞台出演作は、ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』、ミュージカル『REEFER MADNESS』、ミュージカル『怪人と探偵』、ブロードウェイ・ミュージカル『「ウエスト・サイド・ストーリー」Season1』(2019年)、ミュージカル『ボディガード』日本キャスト版(2020年)、2021年には、舞台『東京原子核クラブ』(1月)、ミュージカル『ゴースト』(3月)への出演が控えている。

 

【公演概要】

■タイトル

『東京原子核クラブ』

■日程・会場

2021年1月10日(日)〜1月17日(日) 本多劇場


※2021年1月9日追記

政府の緊急事態宣言および東京都の緊急事態措置等をうけ、1月12日(火)以降の公演に関しまして、下記のとおり、一部公演の中止、開演時間の変更、及び昼公演の追加を行います。

▶︎公演中止 20201年1月12日(火)19時 、1月13日(水)19時、 1月14日(木)19時

▶︎開演時間の繰り上げ 2021年1月16日(土)18時→1月16日(土)17時

▶︎追加公演 2021年1月14日(木)14時

チケットの払い戻し、他公演回への振替等は下記ホームページにてご確認ください。

http://tokyogenshikakuclub.com/


■出演

水田航生 大村わたる 加藤虎ノ介 平体まひろ 霧矢大夢 上川路啓志 小須田康人 石田佳央 荻野祐輔 久保田秀敏 浅野雅博 石川湖太朗 (登場順)

■入場料

全席指定7,700円、配信チケット3,500円 ※税込

チケット発売

一般発売 2020年12月12日0:00〜

公式ホームページ

https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/tokyogenshikakuclub


☆PRESENT☆

今回インタビューで登場いただいた水田航生さんサイン入り写真を1名さまにプレゼントいたします。

ご応募は下記をご確認ください。

1.NorieMのtwitterアカウント(@noriem_press)をフォロー。

2.プレゼント該当twitterをリツイート。

3.該当ツイートにコメントで応募完了です。

※締切は12/7(Mon) 23:59、当選の方へはtwitter DMでご連絡いたします。プレゼントツイートは12/2(Wed)配信致します。

プレゼントの発送は日本国内のみとなります。たくさんのご応募お待ちしております!!


(2020,12,01)

photo:Hirofumi Miyata/styling:Kentaro Okamoto/hair&make-up:Kei Kokufuda/interview&text:Saki Komura

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