6月4日(金)より東劇・新宿ピカデリーほか全国にてシネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』が公開されます。玉三郎さんが取材会にて本作の見どころを語ってくれました。

シネマ歌舞伎は、歌舞伎の持つ本来の面白さ、美しさ、そして心を打つ感動の場面の数々を分かりやすく、身近に感じてもらいたいという願いのもと、2005年に第1弾『野田版 鼠小僧』が公開され、歌舞伎の舞台公演を映画館でのデジタル上映で楽める新しい観劇空間。
俳優の息遣いや衣裳の細やかな刺繍まで見ることができる映像の美しさは生の舞台とはまた異なるシネマ歌舞伎ならではの魅力!!2021年現在、36作のシネマ歌舞伎作品が誕生し、『鰯賣戀曳網』は37作品目となります。

今回公開される『鰯賣戀曳網』は、第四期歌舞伎座閉場前の平成21年(2009年)1月歌舞伎座さよなら公演にて上演された舞台を撮影。中村勘三郎さんのおちゃめでユーモラスな鰯賣猿源氏と、坂東玉三郎さん演じる秘密を抱えた美しく気品溢れる傾城蛍火が織りなす恋物語。
稀代の作家・三島由紀夫氏が『地獄変』に続き、手がけた2作目の歌舞伎作品で、他の「三島歌舞伎」作品とは異なり、幸福に向かって進んでいく男女二人の恋物語を描いています。
互いに身分を偽って、想いがすれ違いながらも、運命の恋の糸を手繰り寄せる二人。勘三郎さんと玉三郎さんが醸し出す愛嬌とファンタジックな要素が混ざり合って、三島由紀夫氏が意図した通りの大らかで和やかな笑いが観客を幸せな結末へと導き、最高にハッピーなエンディングを笑顔で楽しめる作品です。

 

取材会で玉三郎さんは、まだ本作をご覧になっていない方、あまり歌舞伎をご覧になっていない方へ向けて「芝居って書き終えてしまうと作品が作家を離れて、役者によって記憶がひとり歩きしていくものでもあるんです。勘三郎さんという人がどんな方なのだろうと思って見ても良いと思いますし、三島先生の作品の中で、こんなにも幸せになれる物語は珍しいので物語を楽しんでいただければ嬉しいです。シネマ歌舞伎は時間が短く、とてもわかり易い作品が多いというところも魅力だと思います」と作品の見どころをわかりやすく語ってくれました。

難しいという印象を受ける方も多い歌舞伎の楽しみ方について玉三郎さんは「私は学術的に歌舞伎を理解しようと思って歌舞伎俳優になったわけではありません。幼いころは感覚で入っていって、わからないところは飛ばして見ていって、大人になり、取材でお話をする機会も増えたので、勉強しなくてはいけないと思って勉強をしました。だからまずは感覚で見ていただけたら良いと思います。歌舞伎って支離滅裂なところがあるんですよ(笑)。だからそれを繋げて見ていこうと思わないことが一番いいと思います(笑顔)。この頃思うことなのですが、演劇って基本的に飛躍しているもので、その飛躍を楽しめるかどうかというところが、劇場を楽しめるかどうかという分かれ道だと思います」と想いを込めて話してくれました。

途中、シェイクスピアの作品を例に挙げ「どうして牧師さんからジュリエットは仮死状態になる薬をもらうの?ハムレットも父親の言ったことはもしかしたら誤解かもしれないじゃないですか。父親の亡霊が言ったことをまに受けてよくあれだけの敵討ちが出来ますよね。そう考えるとシェイクスピアも飛んでいます。能楽だって飛躍していて、ある旅の僧のところに時空を飛んだ霊が現れて、私はこういうものですと語り、夜が明けたら去っていく。十分に理解出来ない展開でもあるのでしょうが(笑)、そこに宿るひとつの人物の魂が立ちあがっていくところを感じられたらそれで良いと思いますし、それを感じたくてお客さまは劇場に足を運んでいらっしゃるのではないでしょうか。演劇ってそういうものですよね」とユーモアたっぷりに解説してくれました。

また、「勘三郎さんが面白いことをおっしゃっていました。“歌舞伎のオススメのものを3本観なさい。そして3本観てダメだったら多分歌舞伎を好きにはなれないだろう。そこで決めたら良い”とおっしゃっていて、確かにそうだと思いました」と勘三郎さんとのエピソードも披露し、「こんなに数ある作品の中のオススメの3本に入るかどうかは言えないですが、『鰯賣戀曳網』は観やすい作品だと思います。でもこの作品は古典歌舞伎ではなく、歌舞伎様式をとった近代演劇です。では、古典歌舞伎とはなにかということになると、江戸時代になりますが、そのころはその日のお客さまの様子を見たりしながらもっとざっくばらんにやっていたのではないかと思います(笑)。でもその後に歌舞伎が芸術・アートになってこうでなければいけないとなって来たのではないでしょうか。その中で言えることは、歌舞伎を通してお客さまを幸せにできるかどうか。そこが肝心だと思っています」と話してくれました。

シネマ歌舞伎は、ひとつの作品にフォーカスし、玉三郎さんが語った通り時間も短く、近くの映画館で身近に歌舞伎を観ることができる素敵な機会!!
普段見ることの出来ない表情や衣裳の細いディティールそして、物語の臨場感溢れる世界を映画館ならではのダイナミックな音響で、ぜひお楽しみください。

 

【作品あらすじ】
鰯賣の猿源氏は五條橋で見かけた傾城蛍火に一目惚れ。恋の病にかかり自慢の売り声にも力が入りません。そこで猿源氏の父・海老名なあみだぶつは猿源氏を大名に仕立てて蛍火のいる揚屋へ向かうことを提案します。恋焦がれる蛍火を目の前に夢見心地で盃を交わす猿源氏でしたが、酔いつぶれて蛍火の膝の上で寝入ってしまいます。そして、寝言で「伊勢国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい」と自慢の売り声をあげてしまい、それを聞いた蛍火は猿源氏の正体を問い詰めますが…

【profile】
坂東玉三郎(大和屋)
昭和32年に初舞台を踏む。昭和 39 年に十四世 守田勘弥の養子となり、歌舞伎座「心中刃は氷の朔日」のおたま他で五代目坂東玉三郎を襲名。

「桜姫東文章」の桜姫、「助六由縁江戸桜」の揚巻、「壇浦兜軍記」の阿古屋など当り役が多く、泉鏡花作品の「天守物語」の富姫、「海神別荘」の美女などでも優れた舞台成果を上げている。今夏には篠田正浩監督 で玉三郎が主演を勤め、昭和54年に公開された映画『夜叉ヶ池』が4Kデジタルリマスター版として再び上映されることが決定している。

【作品概要】
■タイトル
シネマ歌舞伎『鰯賣戀曳網』
■作 三島由紀夫
■出演
中村勘三郎、坂東玉三郎
松本幸四郎、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村東蔵 ほか
■収録 平成21年1月歌舞伎座公演
■公式ホームページ
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/
2021年6月4日(金)より東劇・新宿ピカデリーほか全国にて公開
上演劇場は下記より検索ください。
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/sche/index.html

(2021,06,02)

photo(舞台写真):(C)松竹/photo(坂東玉三郎さん):柏原孝史/text:Akiko Yamashita

#NorieM #NorieMmagazine #ノリエム #シネマ歌舞伎 #鰯賣戀曳網 #坂東玉三郎 さん