2023年3、「ファイナルファンタジー」シリーズ35周年を記念した『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』がIHIステージアラウンド東京にて世界初上演されます。

不朽の名作ゲーム『ファイナルファンタジーX』を、圧倒的な映像世界で臨場感を表現し、作品の世界観をそのままに歌舞伎で魅せる記念すべき初上演。

構想から約3年、更なる高みに挑戦すべく歌舞伎化を熱望し、渾身の新作歌舞伎で主人公・ティーダを演じる尾上菊之助さんの取材会が開催されました。

歌舞伎の舞台のみならず、ドラマ『下町ロケット』『グランメゾン東京』などで活躍する尾上菊之助さんの作品への思い、新作歌舞伎を作るきっかけとなったエピソード。そして、NorieMならではのファッション事情までじっくりお話しをうかがいました。

 

ー新作歌舞伎に『ファイナルファンタジーX』を題材として選んだ決め手は?

2020年にコロナ禍になり、3月には国立劇場での歌舞伎公演が急遽中止になり、配信で上演になりました。そこから7月までの公演も中止になったとき、先行きが見えず、とても落ち込みました。そのステイホーム期間中に、またゲームをやってみようと思ったのがきっかけです。どんなゲームがいいかなと考えたときに、一番心に残っていた『ファイナルファンタジーX』に辿り着きました。ゲームをやり始め、攻略本を読み進めて行くうちに、“これは新作歌舞伎になるんじゃないかと思ったのが決め手でした。

 

ーゲームをご存知ない方も多くこの作品をご覧になると思います。『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』を楽しめるポイントを教えてください。

この作品はゲームという概念を超えた素晴らしい物語なので、何も心配せずに観に来ていただけたら嬉しいです。心配な方は、古典の歌舞伎と同様、あらすじを読んでから来ていただければ確実に楽しめる作品になっています。今回はわかりやすいこと、見やすいことにかなり拘っているので、ゲームを知らない方も、歌舞伎をご覧になったことない方でも、皆様が同じ世界観を共有できることを目標にしています。ゲーム内で描かれているストーリーを最大限に表現できるように作っておりますので、ご期待ください。徐々に明かされる真実がターニングポイントだと思うのですが、強大な敵を倒すべくヒロインに協力していくヒーロー含む登場人物の葛藤と成長を皆様に見ていただきたいと思います。ひとつのものに向かって、力をあわせて戦っていく姿はいつの時代も胸を熱くする普遍的な生き様です。この作品では、ヒロインだけが問題を抱えるのではなく、一緒に戦うパーティ6人が抱える葛藤も細かく描かれています。歌舞伎的な手法も入れて物語を更に楽しんでいただけるようにしたいと思います。

 

ーこれまでも「NINAGAWA 十二夜」「マハーバーラタ戦記」「風の谷のナウシカ」など自身の企画、構想から新しい歌舞伎の舞台を創り出してきた菊之助さん。今回の作品で楽しみにしていること、また新作歌舞伎へ精力的に取り組む原動力を教えてください。

「風の谷のナウシカ」をさせていただいた時も脚本が出来上がっていく段階で、かなり時間がかかりました。新作歌舞伎を立ち上げるには45年を要すると思います。今回は、コロナ禍で早くお客さまの元へ届けたいという思いがありましたので、スクウェア・エニックスさま、TBSさま、松竹に協力をいただいて、短いスパンで作りあげようという思いに合意を得て実現しました。今、総力を挙げて取り掛かっています。新作歌舞伎をつくることは、常に考えるようにしています。新作歌舞伎というと、珍しいと思われることもあるのですが、今上演させていただいている古典も、先人たちが作った当時の新作だったものです。その作品ができた当時は今私たちが感じているような、“その時代を生きるお客さまにどのように歌舞伎が届くのかと考えて歌舞伎役者は新作を作り上げていきました。私もいただくだけではなく、今生きている私たちが新作歌舞伎を作り、先人たちに続いて、未来に残る古典を作ることが未来の歌舞伎へ対するご恩返しだと思います。それが原動力です。

 

ーステージアラウンドでの上演で楽しみにしていることは?

東西南北の4つのステージの模型を見ながら、各ステージにどの場面を落とし込んでいくのかを決める作業をしています。展開も早く、8メートルあるスクリーンに何を映すのかということも絵コンテを元に、必要な映像を洗い出します。そして、ゲームの中からイベント映像も切り取ってスクリーンに映し出せるように、スクウェア・エニックスさまに許諾を取り、ブラッシュアップしたものをお見せできるようにと考えています。ゲームの映像が8メートルのスクリーンに映し出されたらどうなるのか?私自身もとても楽しみです。観ているお客さまもその世界に入った感覚が生まれるのではないかと思います。

 

ー歌舞伎との融合をどう取っていくのか?

どちらかに偏り過ぎない様、互いの良いところがきちんと詰まった舞台にしたいと思っています。歌舞伎的な面では、幼い頃から培ってきた歌舞伎の演技体が生きるような芝居をつくり、歌舞伎の約束事を活かしつつ現代テクノロジーを効果的に使用していきたいと思っています。映像と融合し、360度、4面の舞台がある劇場で歌舞伎を上演するのは初めてなので、演出方法も今までにはないものになります。いかに歌舞伎と融合するかを注目していただきたいです。ファイナルファンタジーXと歌舞伎との融合をどうやっていくのかは、場面によってバランスは少しずつ変えていくつもりですが、舞踊や立廻り、歌舞伎独特のセリフ回しは活かして行きたいと思います。

 

ー演出を手がける、出演それぞれのやりがい、楽しみにしていることは?

金谷さんと一緒に演出をさせていただきますが、金谷さんが経験されてきたことと私が歌舞伎の世界で経験してきたことはだいぶ違うので異なる世界でやってきた二人の演出技術の持ち寄りを元にして、新しいものを作っていくことにやりがいを感じています。金谷さんから勉強させていただくことも多く、ミーテイングをしながら一場、一場作っていくことがとても楽しく、刺激を受けています。出演するにあたっては、脚本が素晴らしく、名セリフもたくさんあるんです。それをファイナルファンタジーXの世界に入って、自分が話すと考えただけで興奮します。

ー最後にこの作品、この劇場ならではの見所をお願いします

ファイナルファンタジーXの世界にいるような没入感を味わっていただけます。ゲームファンの方には、自身がゲームの世界の中にいるような感覚になっていただけますし、歌舞伎を好きな方は、ゲームの中の素晴らしい、感動的なストーリーを感じていただけます。歌舞伎の演技体を表現できる演出にし、しっかりと歌舞伎の作品にしていきたいと思っております。楽しみにご期待ください。


▶︎尾上菊之助さんファッション事情◀︎

ー今日の衣裳を選んだ決め手を教えてください。

ファイナルファンタジーは水を描いているシーンが多いので、ブルーの衣裳を選ばせていただきました。普段ダブルのスーツを着る機会があまりありませんので、特別感があっていいですよね。

 

ー普段のファッションスタイルはどんな雰囲気ですか?

劇場で作品に入っているときの初日と千穐楽はスーツを着ます。普段は、雪駄が多いです。雪駄を履いて、Tシャツにジャージというスタイルが多いです。

 

ー雪駄を履くようになったきっかけはどんなことだったのでしょうか?

履くようになったのは最近で、雪駄を履くと地面を掴んでいるような感覚があって、そこが好きです。

 

ーお気に入りの雪駄もありますよね?

あります!!浅草で作ってもらっているのですが、お店で好きな鼻緒と土台を選んで購入しています。

 

ーご自身の好きな組み合わせで作った雪駄はお気に入りで大切なものですね。そういう時間は大切ですね。

なかなか時間をとることが難しいのですが、山に行くのが好きなので、アウトドアショップに行って、山に行っても寒くないようなダウンを探したり、レインウエアを探したり、今はかっこいいものがたくさんあるので、そういうものを見ることも好きですね。

 

ークリエーションに対してストイックに向き合っていらっしゃる一方で、プライベートな時間も大切にされていらっしゃる菊之助さん。新型コロナウイルスによるステイホームの期間中はお子さん、家族との時間もとることへの変化はありましたか?

そうですね。時間の使い方がそれまでとは違いました。子供の稽古は家内に任せていましたが、自分が稽古場に連れて行ったり、稽古を見る時間もとるようになりました。以前は、自分のことに精一杯でしたが、子供との稽古や遊ぶ時間をとることを考えるようになりました。

 

ーその時期は歌舞伎のことを改めてじっくり考える時間でもありましたか?

そうですね。当時は先行きが見えなかったので、4ヶ月とはいえすごく不安な気持ちになりました。

 

ーその中で、今回ファイナルファンタジーXを歌舞伎として上演したいという考えが生まれたり、前向きになって希望を見る時間にもなりましたね。

不安もありつつ、今後のことを考えた時に、次の新作を作るチャンスを与えていただいたことと、ファイナルファンタジーXに巡り会えたこと、スクウェア・エニックスさまに許諾をいただき、TBSさまと共同で作り上げる機会をいただけたのは、落ち着いて考える時間があったからかもしれません。

 

ー取材会で作品のことをお話しになる菊之助さんの笑顔から、本当にファイナルファンタジーが好きという気持ちが溢れていました。作品をご覧になる皆さまへの想いを教えてください。

コロナ禍になり、普段通りに生活ができなかったり、人と会えなかったり、劇場にいらしても制限があったり、ご不便もあると思いますが、来ていただいたからには、少し日常を忘れて、人は人を思いやり、思ってもらった人がまた人を思いやり、という人が人を思いやる温かい心を感じていただけると思います。前向きに元気になっていただけるテーマですので、そうなれるお力になれたらと思っています。

 

profile

尾上菊之助

197781日生まれ。東京都出身。

19842月に『絵本牛若丸』の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。

19965月には『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助ほかで五代目尾上菊之助を襲名。

立役・女方として、時代物、世話物、舞踊と幅広いジャンルで活躍。主なTVドラマ出演作にTBS日曜劇場「下町ロケット」「グランメゾン東京」や、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」などがある。

公式ホームページ  

https://topcoat.co.jp/kikunosuke_onoe

公式Instagram

https://www.instagram.com/onoekikunosuke/


【公演概要】

タイトル

『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX

日程・会場

202334()412() IHIステージアラウンド東京

出演

尾上菊之助 中村獅童 尾上松也

中村梅枝 中村萬太郎 中村米吉 中村橋之助 上村吉太朗 中村芝のぶ

坂東彦三郎 中村錦之助 坂東彌十郎 中村歌六 ほか 

公式ホームページ

https://ff10-kabuki.com/

■公式Twitter

@ff10_kabuki

(2022,11,18)

photo:Tsubasa Tsutsui(perle management)/styling:Takafumi Kawasaki/hair&make-up:Go Takakusagi(VANITÉS)/interview&text:Akiko Yamashita

 

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