4月2日『四月大歌舞伎』が歌舞伎座にて幕を開けました。桜満開のあたたかな春を感じる「平成代名残絵巻(おさまるみよなごりのえまき)」、「寿栄藤末廣(さかえことほぐふじのすえひろ)」へ出演の中村壱太郎さんに歌舞伎の魅力、そして現在上演されている『四月大歌舞伎』の演目について、そして5月に上演されるオフシアター歌舞伎『女殺油地獄』についても語っていただきました。

−お昼の部おつかれさまでした。一つ目の演目「平成代名残絵巻」、三つ目の演目「寿栄藤末廣」へ女方でご出演されていますが、11時からの開演にむけて、まずどのような準備をされるのでしょうか?
今月は9時45分頃に歌舞伎座に入り、そこから化粧をし、各楽屋を回って挨拶をします。歌舞伎座は歌舞伎のホームグラウンドですので、毎月多くの役者さんが出演しています。挨拶に回るのも他の劇場に比べて時間がかかりますので、少し早めに入るようにしています。化粧はゆっくりすると大体30分〜40分位。続けて演目に出るときなどは、幕の間の15分や20分の休憩で仕上げます。衣裳と鬘は、専門の方がいらっしゃいますので、楽屋で支度を整えて、いざ舞台に上がるというスケジュールです。

「平成代名残絵巻」

−歴史のある歌舞伎の衣裳や鬘は実際に身につけると重みはどの位ありますか?
例えば僕が今月演じている「平成代名残絵巻」の中で着ている衣裳は、実際に重さを計ったことはありませんが、決して軽くはありませんね(笑)。豪華な衣裳の傾城のお役などになると、ずっしりと重みのあるものがあります。ほとんど昔から変わらない素材と技法で作られていますので、今は縫い手の方が少なくなっていて大変だと聞きます。お役によっては、ひとつ作るのにもかなりの費用がかかる衣裳もあります。

「寿栄藤末廣」

 

−実際に演じるお衣裳を着けてのお稽古の期間はどのくらいですか?
今月の稽古では、本番前に1度、衣裳を着けました。というのも、特に今月は古典の作品がずらっと並んでいますので、みんながやることをわかっている前提で稽古がスタートし、4日間の稽古で初日を迎えます。今月は2日が初日で25日間、翌月も同じように月初から25日間。歌舞伎は基本的にこのサイクルで公演を行っているので、実際に衣裳を着てお稽古をするのは、初日の前日、初日通り舞台稽古のときのだいたい1回、多くてもその前日を含めて2回というところです。もちろん、自分で衣裳を借りて事前にお稽古をするときもあります。

 

−踊り、動きの中での衣裳を着けての身体の重心や動かし方はその1回で調整をされるのでしょうか?
演目と役を聞くと、鬘や衣裳が想像でき、今までの引き出しをつなぎ合わせると、イメージができるので、慌てることなく準備をしていけます。その都度工夫して衣裳を着たり、その踊りに合った着方をしたりと、衣裳さんと相談して着やすくする工夫をしたりして、大きな事故なく初日を迎えることができます。

 

−「平成代名残絵巻」では坂東巳之助さんとの見せ場がありますが、ご一緒されるというのはどんな気持ちですか?
巳之助さんは、年齢がひとつ上で、日頃から仲良くさせてもらっていて、舞台でご一緒するのは一昨年の「新春浅草歌舞伎」以来、2年ぶりです。久しぶりということになりますが、僕らは子供の頃から一緒にやって来ているので、一緒に踊っていても、すぐに気持ちを合わせることができます。巳之助さんも僕も歌舞伎の世界にいますが、僕の母方は日本舞踊(吾妻流)におりまして、僕も日本舞踊では「吾妻徳陽」の名前で吾妻流の家元、巳之助さんも、お父さまの三津五郎のおじ様よりお継ぎになられて、歌舞伎役者と坂東流の家元の二本の柱でやっていらっしゃるので、歌舞伎以外のつながりでも共通するところがあり、信頼がおけて、いろいろ相談をしています。真面目な話だけをしているわけではないんですが(笑)、すっと話に入っていけるので、よく話をしていますね。

 

−「寿栄藤末廣」では、坂田藤十郎さんの米寿を記念して作られた演目ですので、大先輩の皆さんとの共演です。どんな気持ちで臨まれていますか?
祖父の藤十郎が、米寿88歳で元気に舞台に立っていることがありがたいことです。そして、同じ空間で同じ舞台に立てるということの大きさというのは、何ものにも代え難いものです。この演目は、1月に大阪松竹座で上演いたしましたが、歌舞伎座では今回が初めてになります。猿之助の兄さんをはじめとして、皆さんが快くご出演してくださって、本当に華やかな舞台になりました。身内としては、祖父がこのような舞台に立ち、一緒に舞台に立てる喜びがあり、一方では、大先輩の姿を目に焼き付けるという、自分にとって大きな二つの意味がある舞台です。

−ご出演している二つの演目ともに、新作になるのでしょうか?
「平成代名残絵巻」と「寿栄藤末廣」、どちらの演目も今回の『四月大歌舞伎』のために作られた作品です。ただ、歌舞伎の面白いところは、今回のように新作として上演する作品も、古典の土台を基に新しくアレンジできるというところです。「平成代名残絵巻」としてはもちろん初めてですが、古典の作品の要素、例えば装置、粗筋、登場人物などいろいろな要素をつまみ食いして、ひとつの新しい作品にしています。そういうことができるのも歌舞伎の面白さだと思います。「寿栄藤末廣」は、「鶴亀」という長唄のおめでたい作品が基になっていて、アレンジしています。そういう意味でも今回の『四月大歌舞伎』は、1あるものを2にも3にも4にもできるという歌舞伎の面白さをご覧いただけると思います。

 

−どちらの演目も衣裳はもちろんですが、桜が散りばめられた舞台も華やかで、一瞬で魅了されてしまう、ここでしか観ることのできない世界だと感じました。
ちょうど今は桜の季節で、5月は藤ですから季節を大切にするというところが歌舞伎にはありますね。道具もほぼ一から大道具さんが手作りで作っています。装置も、普通だったら電動で動かしている道具を人間が動かしたりと、手動でアナログにこだわってやっていたりするので、そういうことが積み重なることによって歌舞伎独特の雰囲気が出てくるのかもしれないですね。

 

−今回出演されている、「平成代名残絵巻」、「寿栄藤末廣」どちらも女方ですが、演じる上で意識している部分を教えてください。
今回はどちらも見せ場が踊りです。最初の演目ではいわゆるお姫様の役なので、これからお嫁さんにいく平徳子という人物の初々しさを踊りの中に表現できたらと思います。ふたつめの演目では、帝に仕える従者なので、すっとした女性で踊りたいなという想いを持って踊っています。

 

−壱太郎さんが考える女方の魅力とは?
女性じゃない女というところが魅力だと思います。歌舞伎は男性だけで演じられる演劇で、その中で生まれるのが女方。女方の鬘や化粧や衣裳の特異性というのは、歌舞伎独特のものだと思いますし、今月は先輩の女方さんがたくさん出演していますので、いろいろな技術を盗みたいですね。僕自身、芝居を観ていることが大好きで、昼の部の『御存 鈴ヶ森』では、女方は出て来ませんが、菊五郎のおじさまと吉右衛門のおじさまが共演するということ自体が一歌舞伎ファンになっちゃうくらいの気持ちです(笑)。そういう中で盗んで、自分の気付きを繰り返してどんどん自分の芸が出来ていくのだと感じています。

 

−「四月大歌舞伎」の後には、5月に上演されるオフシアター歌舞伎『女殺油地獄』への出演が控えていますが、この作品の試みというのはどういうところにあると感じますか?
(中村)獅童のお兄さんの今までのいろいろな経験の中で、いつか倉庫のような環境で芝居がしたいということ、そして、『女殺油地獄』という歌舞伎の古典の演目を、いつか違う場所、環境でやりたいと思われていたことが今回実現します。僕自身も、『女殺油地獄』には何度も出演していますが、今回のように現代演劇の演出家が入るのは初めてですので、ゼロになってどれだけ身を委ねられるかだと思っています。こういったお芝居の経験はまだ少ないですし、今回はほぼ1ヶ月稽古をして臨む作品です。上演する場所はどちらもアリーナ形式で、360度お客さまが囲むステージになります。普段と異なり、隠すことができない環境で自分がどこまで挑戦出来るのか楽しみです。稽古を重ねて行く中で、こうしていきたいという自分の中での指針も出てくると思います。まずは、演出の赤堀雅秋さんと獅童のお兄さんがやりたいことを全部受けて、そこから相談しながら作り上げていこうと思っています。

−4月の公演が始まって歌舞伎座で過ごす時間が多いと思いますが、その中でお時間ができた時にすることはありますか?
リラックスしてゆったりということはなく、絶対何かをして過ごしています。今月も時間さえあれば芝居を観に行っています。

 

−その中で一番楽しい時間はなんですか?
芝居を観終わって、いろいろなことが頭に浮かんで来ている時ですね。以前は、劇場でもらうチラシの中で気になるものを片っ端から観に行っていました。決して勉強しようと思って観に行っているわけではなくて、好きだから芝居を観に行くという感覚です。結果として、ちょっとしたところで、それが活きて来ることもありますよね。

 

−いろいろなお芝居をご覧になって、ご自身で出演してみたいと感じる作品はありますか?
やっぱり僕自身は歌舞伎役者なので、歌舞伎役者として求められるものがある舞台であれば。作り上げていく感じがすごく好きなので、今回のオフシアター歌舞伎もそういう意味では大好物、とても嬉しいお話です。

 

−舞台に立つために毎日していることは?また、演じている中でズレを感じた時にどう調整されていますか?
1年365日の中でおそらく300日は舞台に立っていますので、その日々が練習ではないけれど、きっとそんな感じなんでしょうね。ちょっと違うなというところは日々修正し、あとは毎日の積み重ねです。歌舞伎も約1ヶ月上演するので、公演を重ねて行くうちに息があってきますし、今回のような新作ではどんどん構築されても行きます。ただ、常に新鮮な気持ちでいないと馴れてきてしまうので、その場その場で修正して、ビデオを撮って確認したり、いろいろな方向からアプローチして、自分のお芝居を観たり感じたりしながら修正していきます。

 

−『四月大歌舞伎』壱太郎さんオススメの楽しみ方を教えてください。
今回は本当にたくさんの役者が出ています。これだけの歌舞伎役者が一堂に会するのは、歌舞伎座の醍醐味です。昼の部でも夜の部でも構いませんので、誰か一人好きな人を見つけてご覧いただくのもいい方法です。歌舞伎は確かに難しい部分もありますので、まず何かで好きになって興味を持っていただき、あの人かっこいいな、綺麗だなとか、こんな舞台装置があるんだとかそこから入っていただき、そこから今度その人がどんな芝居をやるんだろうとか、その人をもう1回見に行って今度は内容を理解してみようとか。歌舞伎座には一幕見というものがあります。気になる一幕だけを気軽にご覧いただけるのも歌舞伎座の良いところだと思います。あとは、場内はもちろん、地下にまでお土産物屋さんが充実しているのは歌舞伎座だけなので、そういうところも楽しめると思います。
(※「平成代名残絵巻」「寿栄藤末廣」ともに、一幕見は600円という料金で楽しめます)

 

−最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
なんといっても歌舞伎座は、歌舞伎にとってー番の劇場です。暖かくなって来ましたので、おしゃれをしてご自身も華やいだ気持ちで雰囲気を楽しみにいらしてください。

 

昼の部への出演が終わったばかりの中村壱太郎さん。スタイリッシュなスーツで登場し、爽やかなフォトシューティングと熱量たっぷりのインタビューは、明日にでも歌舞伎座へ誘ってくれそうです!!長い時間をいろいろなお芝居で楽しめる歌舞伎の世界。華やかな踊りにしっかりとお芝居も堪能できます。この春は歌舞伎座で楽しく充実した時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。初めての演目には、頼りになるイヤホンガイドや筋書(プログラム)がオススメです!!

【profile】
中村壱太郎
1990年8月3日生まれ。東京都出身。
1991年11月京都・南座〈三代目中村鴈治郎襲名披露興行〉『廓文章』の藤屋手代で初お目見得。
1995年1月大阪・中座〈五代目中村翫雀・三代目中村扇雀襲名披露興行〉『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。2007年に史上最年少の16歳で大曲『鏡獅子』を踊る。
2010年3月に『曽根崎心中』のお初という大役に役柄と同じ19歳で挑む。
現在、女方を中心に歌舞伎の舞台に精進しつつ、ラジオやテレビなどにも活動の場を広げている。また「春虹」の名で脚本執筆、演出にも挑戦中。2013年3月慶應義塾大学総合政策学部卒業
2014年9月吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元襲名。
中村壱太郎 Official Website http://kazutaronakamura.jp/

 

【公演概要】
■タイトル 『四月大歌舞伎』
■日程・会場 2019年4月2日(火)〜4月26日(金) 歌舞伎座
■公式ホームページ https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/610

 

■タイトル オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』
■日程・会場

2019年5月11日(土)〜5月17日(金) 天王洲アイル・寺田倉庫 G1-5F

2019年5月22日(水)〜5月29日(水)歌舞伎町・新宿FACE

■公式ホームページ https://www.shochiku.co.jp/engeki/offtheater/

(2019,04,17)
photo:Yuji Watanabe photo(Stage):オフィシャル提供

interview&text:Akiko Yamashita