朝海ひかるさん、平埜生成さんが共演するこまつ座公演『日の浦姫物語』が9月6日から、紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演されます。『日の浦姫物語』は劇作家、井上ひさし氏の初期名作。朝海さんが数奇な運命を辿る日の浦姫の15歳から53歳までを演じ、平埜さんは運命に翻弄される稲若と魚名の二役に挑みます。兄妹、夫婦、親子とさまざまな愛情が交錯する役柄に挑むふたりに作品の魅力をうかがいました。

 

-『日の浦姫物語』は近親相姦などが描かれた異色の内容です。この作品に出演されようと思った理由は何でしょうか?
朝海さん「とても魅力のある戯曲ですし、井上ひさし先生の作品は大好きなので、井上先生のお芝居に出られるならと、一も二もなく“やります!!”とお受けしました」

平埜さん「こまつ座さんの舞台は無条件的に出ますと言っています。前回出演した『私はだれでしょう』のときはすごくいい話だという印象があったのですが、今回は完成しない人間の愚かさを描いている部分が多い。でもそこをゲラゲラ笑って読んでいる自分がいたんです。そういう感覚も大きな要素になりました」

-朝海さんは兄の子供を産んだ日の浦の少女時代から老いていくまでを、平埜さんはその兄と息子の二役を演じます。役柄について教えてください。
朝海さん「日の浦は東北の領主の娘なのですが、今の福島なんです。私の両親も福島出身なので何かご縁を感じています。私のDNAは福島人だから大丈夫という勝手な自信をもらったりもしています」

平埜さん「僕は福島県生まれですよ。東京育ちですけど」
朝海さん「わあー、そうなんだ。二人とも福島にご縁があるんですね。日の浦はそこで生まれ育った双子の妹です。母は産むと同時に亡くなってふたりきり。お兄ちゃんが大好きで世界の全てだったんじゃないかと思います。恋愛と呼んでいいのかわからないのですが、15歳という多感でいろいろなものに興味を持つ時期に起こってしまう事件。私自身は近親相姦なんてありえないと思うのですが、この話の中だとなぜか自然にそれを受け入れてしまいました。子供と別れ別れになった後は、息子と知らず村を助けてくれた若者と結婚してしまう。愛し合ってからの日の浦の自問自答に同調してしまう部分もあって、その人間臭さ、理性と感情的な本能の戦いは、どんな人にでもあると思うので、すごく面白い。井上さんが考える女性のエキスを全て入れようとした役柄なんだろうと感じます」

平埜さん「僕は双子の兄で妹と恋に落ちてしまって子供が出来てしまって…。さらに、その子供である魚名は母である日の浦姫と恋をしてしまい、事実を知って懺悔の時間を過ごし、また再会し罪を許しあう。役柄だけを話すとなんとも現実離れしたように思いますが、意外とゲラゲラ笑いながら観られる戯曲なんです。ラストの仕掛けは話せませんが」

-確かに、現実ではなかなか体験しない物語ですね。役柄にはどのようにアプローチしていくのですか?

平埜さん「毎回、役へのアプローチの仕方は違うのですが、今回はもう少し井上ひさしという人間を知らなきゃいけないなと思っています。それによって役に通じる部分が生まれてくるんじゃないかなと思うんです。作品には、グレゴリウス1世の伝説などのベースはあるのですが、このせりふを書いた井上ひさしという人間像にも向き合いたい。そこから何か掴めるものがあるのかなと思っています」

朝海さん「役づくりと言っていいの分からないのですが、役を考えるときはいつも周りから想像していくんです。どんな土地に住んでいたのか、どんな家に住んでいて冬の寒さはどうだったんだろうかとか。今回は実家の祖父母の家を少し思い出して、福島の厳しい寒さや夏の暑さを思い出してみたりしました。その状況に置かれた人間であれば、おのずとそのせりふも出てくるのかなと思っています。希望的観測を含めてですが(笑)」


-1978年に書き下ろされた作品で、井上さんの晩年の戯曲と違って、若い荒々しさや奔放さを感じます。おふたりが前回こまつ座で共演した『私はだれでしょう』ともかなり印象が違います。
朝海さん「『私はだれでしょう』より、もっとリズミカルで、もっとギャグやわかりやすいダジャレが入っていますね。シリアスなセリフでも本当はギャグ的な方向で書いているのかなと思うぐらいです。もしやただのパロディ戯曲なんじゃないかとも思うぐらい。重くとらえすぎないで軽妙にできたらいいなと思っています」
平埜さん「読んだとき、まずみずみずしいなと感じて、登場人物みんなが踊ってるような印象でした。晩年の井上作品は日本の体制への強い問いかけも増えていきますが、今回の話はもっとシンプルに人間の愚かさや男女の恋愛などをテーマにしている。どこか俳優やお客さんのことまでも、“それでいいの?どうなの?”と聞かれているような感覚もある。井上さんの根幹の熱や怒りみたいなものをすごく感じて、面白いです」

-演出の鵜山仁さんはいかがでしょうか?
平埜さん「初めてご一緒するんです。今回は鵜山さんはじめ共演の先輩方も、(新劇の劇団である)文学座の方がたくさんいらっしゃいます。この戯曲には井上さんのちょっとした新劇批判もあって、そこをどう調理するんだろうという興味もあります」
朝海さん「鵜山さんとは、『幽霊』『黄昏』とご一緒しました。本当に面白くて素敵な方。音楽にも詳しいので、どんな音楽を使うのかも楽しみ。昔はミュージカル俳優だったそうですよ」

平埜さん「ミュージカル俳優だったんですか!?」

-禁忌の愛だらけで、あらすじだけをお伝えるすると重い陰鬱な話ととらえられがちですが、今回はどのように作品が届くといいと考えていますか?
朝海さん「近親相姦とか現実味のない出来事ですが、そこに生きてる人間は今も何ひとつ変わらない。子供に対しての母性や、やってはいけないと思っていてもどうしても手を出してしまう人間の性とか普遍的なテーマだと思います。見ている方の琴線に触れるものが必ずあるはずです。その琴線に触れた登場人物を、自分の中から出てきたキャラクターのように感じていただき同調しながら観ていただく。そういう作りにもなっている戯曲なので、お客さまがどの人物に同調されるかも楽しみです」
平埜さん「どう見て欲しい、どう伝えたいというのはあまりないのですが、ドコメディーにしたいと思っています。コメディーと聞けば観に来やすいでしょ?スキャンダラスな話ですし…」
朝海さん「女性週刊誌をみる感覚で観てもらえれば」
平埜さん「そうそう。戯曲の本質的なものはそれぞれの受け取り方次第なので、観終わってコメディっていいねとか言われたらいいなあ。喜劇だと感じてもらって笑ってもらいたいし、だからこそ戯曲に真摯に向き合っていきます」

-ギリシャ悲劇の『オイディプス王』もそうですが、紀元前から大衆はこういう物語を見続けているんですよね。普遍的な題材だと思うのですが、どうして人はこういうものにひかれるのでしょうか?
平埜さん「せりふの中に、“秘密は漏れるから秘密なんだ”というのがあって、本当に面白いなあと感じたんです」
朝海さん「よく女同士で“ここだけの話だけどね”とか“絶対言わないでね”と話しますが、秘密って漏れるから秘密。スキャンダラスなことが好きなんですよね」
平埜さん「日本人は特に好きなのじゃないかな?ネットニュースしかり」
朝海さん「島国だからね…」
平埜さん「みなさん絶対好きな題材なので、先入観にとらわれず観てくださいね」

-井上作品に出演することで学んだことはありますか?
朝海さん「今回で4作目になりますが、教わることばかりで、自分がいかに無知かを毎回実感します。台本を隅から隅まで読んで、あーそういうことだったんだと気づかされます。『私はだれでしょう』の時は、終戦後の日本の土台ができる時代を一から勉強させてもらいましたし、日本人なのにそういう日本の大事な歴史を知らなかったことに打ちのめされました。こういう言い回しをすれば美しい日本語になるんだともわかりました。素敵なキャラクターばかりで、人間として成長したいなと思わせてくれます」

平埜さん「ぼくはこれが2作目ですが、なんだか楽しいなって思わせてくれるんです。例えば、別役実さんの戯曲とは違うという印象もあったのですが近い部分を見つけたり、アングラ演劇と通じることも感じたり。そして、多分、井上さんにはどこか絶望してる目線があるのだと思います。ほかにも、自分がいかに小さな存在なのか、そして舞台の大切さも教わります」

-少し作品と離れて、最近のマイブームを教えてください。
平埜さん「興味のあるものでいいですか? 馬に興味があって…」
朝海さん「競馬?見に行くの?」

平埜さん「まだ行ってはいないのですが、馬と調教師の関係などに興味があって」

朝海さん「なぜそこに興味を?」

平埜さん「知り合いが競馬好きで、競馬の背景で生まれるドラマの話を聞いて感動しちゃって泣きそうになったんです。そういう本を読んで、生き物と人間とか、言葉ではない関係に興味を持つようになったんです」

朝海さん「私も馬を見るのが好きで、日曜日に家にいたらなんとなくテレビで競馬をみています。1位を取った時の馬のドヤ顔と尻尾がふっと上がる瞬間や、騎手は誇らしげで調教師さんは親みたいな顔をして迎える、あの一連の流れが好きですね」
平埜さん「朝海さんのマイブームは?」
朝海さん「私のマイブーム、うーん(ちょっと考えて)、筋トレですね。昨年の春ごろから始めました。下半身が安定してきて、物を拾うとか階段昇り降りがすごく楽になったんです。筋肉は鍛えないととどんどん弱っちゃうんです」

平埜さん「なぜ、そんなに美を保っていられるのですか?
朝海さん「びぃ?」
平埜さん「”美”です!!若さも」

朝海さん「若くないですよ。宝塚を卒業してから改めて年齢を数え始めたので(笑)、精神年齢が低いだけです(笑)」

平埜さん「なるほど、竜宮城にいたからか…。どれぐらい筋トレしているんですか?」
朝海さん「月4回ぐらい。ひとりでは何もやらないので、ジムに行って集中してやっています」

ー最後に、皆さまにメッセージをお願いします。
平埜さん「前回、NorieMさんでは、ひとりでインタビューしていただいたのですが、朝海さんと一緒に出たいとお願いしていたのがすぐに実現してうれしいです。大人の女性との恋をぜひ観にきてくださいね」
朝海さん「世の女性の象徴のような役なので、観ながら気づく事、共感できる事があると思います。身構えず、まずはただ笑いに来てください。女性週刊誌をのぞくように気軽に楽しみながら、客観的に観ていただけるとより楽しめると思います」

 

【profile】

朝海ひかる
1月24日生まれ。宮城県出身。
1991年、宝塚歌劇団に入団。2002年雪組男役トップスターに就任。2006年退団。近年の主な作品に【舞台】『黒蜥蜴』(演出 デヴィッド・ルヴォー)、『黄昏』(演出 鵜山仁)、『TOP HAT』(演出 マシュー・ホワイト)、新国立劇場2018/2019 シーズン演劇『かもめ』(演出 鈴木裕美)など。井上作品には『しみじみ日本・乃木大将』、『國語元年』、『私はだれでしょう』に出演。

平埜生成
1993年2月17日生まれ。東京都出身。
舞台、TV、映画と幅広いジャンルで活動を続け、2014年に蜷川幸雄さん演出のNinagawa×Shakespeare LegendI「ロミオとジュリエット」ではティボルト役で出演。「ア・フュー・グッドメン」、「オーファンズ」、「DISGRACED」、こまつ座「私はだれでしょう」、「誰もいない国」と舞台への出演を続け、TVでは、2018年11月「今日から俺は!!(#5)」、2019年には「女川 いのちの坂道」、「隠蔽捜査~去就~」、「家政夫のミタゾノ(#6)」へ出演。5月24日公開の映画『空母いぶき』にも出演。

【公演概要】
■タイトル こまつ座第129回公演『日の浦姫物語』
■日程・会場 2019年9月6日(金)~9月23日(月・祝) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
■作 井上ひさし
■演出 鵜山仁
■出演 朝海ひかる 平埜生成 毬谷友子 辻萬長 ほか
(辻は一点しんにょう)
■公式ホームページ http://www.komatsuza.co.jp/

(2019,07,20)
Photo:Hirofumi Miyata/Hair&make-up: 安海督曜[平埜さん]/Styling: 村留利弘(Yolken)[平埜さん]/Interview&text:Oko Takubo

#NorieM #NorieMmagazine #ノリエム #こまつ座 #日の浦姫物語 #朝海ひかる さん #平埜生成 さん