現在歌舞伎座で上演されている「秀山祭九月大歌舞伎」。
三世中村歌六の百回忌の追善狂言も上演される今年の秀山祭。追善演目である『伊賀越道中双六 沼津』、秀山十種の内『松浦の太鼓』に出演、当代の五代目歌六を父に持つ中村米吉さんへインタビュー。
7月の休暇にプライベートで家族で訪れたトルコでのエピソードも語っていただきました。

 

ー今月上演されている「秀山祭九月大歌舞伎」の直前の7月、8月に2ヶ月連続でお休みになられたそうですが、どんなお休みを過ごされましたか?

18歳から本格的に役者の道に入って以来、2ヶ月連続で休みをいただいたのは今回が初めてでした。その休みを使いまして、7月に家族でトルコ旅行に行ってきたんですよ。

トルコは文化や歴史が深く面白い国でしたね。カッパドキアとイスタンブールのふたつの町を楽しみましたが、特にイスタンブールは、ヨーロッパでもアジアでもない独特な雰囲気がとても素敵なところでした。家族での海外旅行は久々で、とても有意義で楽しい時間を過ごすことができました。

 

ー家族旅行では、ご家族の中での米吉さんの役割はどんなことでしたか?

言うなればWiFiを持つという役割かな(笑)。あとは、私がデジカメを持っていたので写真係。母も写真は撮っていましたが、何故かピンぼけだったり、ぶれていたりで……(笑)。

ー撮影した中で印象に残っている風景を教えてください。

イスタンブールの町並みやモスクの中もとっても綺麗でしたけども、一番はカッパドキアで夜明けに乗った気球ですね。上空から眺めた風景は、作り物では味わえない感動がありました。

 

ー初めての本場のトルコ料理はいかがでしたか?

羊のお肉の料理が多かったですが、余り臭みがないんですよね。それと、甘くないヨーグルトをソースに使うんですよ。ヨーグルトはデザートだと考える方は苦手に思うかもしれないですが、さっぱりしていて中々良いもんでしたよ。好き嫌いはあるかと思いますが、三大料理と言われるだけのことはありました。種類も豊富でしたしね。あとパンがとても美味しかったです!!

 

ートルコといえば洞窟のホテルも有名ですが、実際に宿泊されたんですよね?ぜひ感想を教えてください!!

外はものすごく暑いのに、洞窟の中の部屋はヒーターをつけるくらい寒くて驚きました(笑)。昔はその洞窟の家に皆さん住んでいたそうですが、昔の人はすごいことを考えますよね。

 

ー帰国してからトルコ料理が恋しくなったことはありましたか?

料理ではないですが、チャイです!!トルコのチャイはインドのチャイと違って、いわゆる普通の紅茶なんです。ただ入れ方が独特で……ふたつのヤカンを重ねて上のヤカンで茶葉を蒸し、下でお湯を沸かす。それから、上のヤカンに下のヤカンで沸かしたお湯を入れて、濃く煮出した紅茶をお湯で割って、チューリップをかたどった小さいグラスに入れて飲むんです。食事の後の飲み物といえば必ずチャイでしたし、どこへ行っても、現地の方はみんな朝から晩までそれを飲んでましたね。

強面のおじさんたちも、小さなかわいいグラスでチャイを飲みながらおしゃべりしているという(笑)。なんだか妙に気に入ってしまって、悩んだ末に空港でチャイのグラスと茶葉を買って帰ってきました。帰ってきてから普通の紅茶のような入れ方で飲んでみましたが、やっぱりふたつのヤカンで、茶葉を蒸して入れないとあの味にはならないんですよねー。

 

ーとてもリフレッシュした家族旅行になりましたね!!リフレッシュしたあとの「秀山祭九月大歌舞伎」。上演への意気込みを教えてください。

私は、播磨屋という屋号になりますが、その播磨屋を大きくされたのが初代吉右衛門という方でした。

“秀山祭”というのは、その初代吉右衛門の偉大な芸を継承していこうという興行なんです。

名前も初代さんが俳句を詠むときに使っていた俳名“秀山”に由来しています。初代吉右衛門の当り芸(好評を得た芸)を“秀山十種”と言いますし、“秀山”というと初代吉右衛門のことを指すんですね。

当時、菊吉時代とも言われる一時代を築いたのが六代目菊五郎と初代吉右衛門のおふたり。ふたりが亡くなると“菊吉じじい”という人たちが現れて、“菊五郎は良かった”、“吉右衛門も良かった”と懐かしむ人が絶えなかったそうです。

そんな偉大な初代さんの精神や姿勢を受け継ごうという秀山祭に、播磨屋の一員として今年も参加させて頂けることは大変ありがたいことですし、しっかりと学び、勤めていかなくてはと思っております。

ー今年の秀山祭は米吉さんにとって別の想いもあると聞いています。どんな想いでしょうか?

そうなんです。今年は、私の高祖父(祖父母の祖父)にあたる、三代目歌六の没後百年であることから、昼夜で二つの追善の演目が上演されます。

三代目歌六というのは、先程お話しした初代吉右衛門をはじめ、三代目時蔵、十七代目勘三郎という3人の素晴らしい歌舞伎俳優の父親なんです。現在、歌舞伎界の舞台を彩っている役者たちにも、三代目歌六に縁を持つ方が非常に多く、裾野も広がっています。今回は皆さんにご協力いただき、当代の歌六である私の父が、三代目歌六が得意とした演目の中から、『沼津』では平作、『松浦の太鼓』では松浦鎮信を勤めさせていただきます。

父は五代目歌六ですが、四代目歌六というのは正確には存在していないんです。私の祖父が、二代目歌昇のまま引退し、若くして亡くなりましたので、父が歌六を襲名する際に死後追贈という形で四代目歌六を贈っております。ですので、舞台に実際に立ったのは、三代目歌六の次は五代目の父ということになります。そういう意味でも、先代の追善という意味合いが強くあるんだと思います。

また、『松浦の太鼓』に関しましては、三代目歌六のために当て書きされて初演を勤めた作品です。今回、父が初めて松浦鎮信を勤めさせていただきますし、叔父、二人の従兄弟に私と、縁の深い役者が揃っている舞台となります。先祖に対して恥ずかしくないよう、しっかりとした舞台を届けなくてはなりませんね。聞くところによると、歌舞伎座で百回忌追善というのは初めてのことだそうなんです。初代歌六が作った播磨屋を、三代目歌六が受け継ぎ、初代吉右衛門、三代目時蔵という兄弟が大きくし、今でも続いてるということをご先祖様にご覧いただく、言ってみれば仏事というよりもお祝い事のような興行です。良い先祖供養になるようにしっかりと勤めたいと思っています。

 

ー先ほどプライベートの旅行のお話もお聞きし、とても仲の良いご家族だと思うのですが、舞台に立つ歌六さんは、どんな方でしょうか?

口はばったい言い方かもしれませんが、私の中では全てと言っても良いかもしれません。父があっての私ですし、知らず知らずの内に父の持っている価値観を私が受け継いでいる部分も多くあります。歌舞伎俳優として同じ仕事をさせていただいている身としても、尊敬するばかりですね。

ー米吉さんがご出演される演目の見どころを教えてください。

まず『沼津』は、『伊賀越道中双六』という長いお芝居の中の一場面です。このお話は、敵討ちのお話で、逃げる敵を追いかけ、最終的には伊賀の鍵屋の辻と言うところで敵討ちを果たす物語です。ですので、タイトルが“伊賀越え”となっているんです。伊賀までの道中を、双六のように辿りながら敵を追いかけるという意味なんでしょうね。

ただ、面白いことに、この『沼津』というお芝居の中には、仇を討つ側も、仇も出てこないんです(笑)。本来敵討ちですので、追いつ追われつのデッドヒートを想像するのですが、そうではなく。仇を討つ側の奥さんであるお米という女性、その女性のお父さんである平作、敵側の助っ人の十兵衛という呉服屋さん、という敵味方に分かれてはいるけれど、何もなければ関わり合いのなさそうな人たちが、偶然沼津で出会い、平作が十兵衛の荷物を持つことになって……という展開です。その後に、とても深く、切ない人間ドラマと衝撃的な結末が待っているんですが、それはぜひ劇場でご覧いただきたいと思います(笑)。

前半は、朗らかで明るい旅の雰囲気が良く表現されていて、客席におりて、練り歩くシーンなんかもあるんですよ。そこから物語はどんどんドラマチックに展開します。前半の明るいところと、後半のシリアスなところのコントラストが上手く描かれている名作です。

実は『沼津』は、三代目歌六の平作と、初代吉右衛門の十兵衛という実の親子で得意としていた作品で、今回の追善では、当代の歌六である父と当代の吉右衛門のおじ様が、先代同士が得意としていた役柄を勤めるというのも見どころのひとつといえると思います。

前後のお話を知った上でご覧になるとより楽しめるかもしれませんが、『沼津』はこの場面だけで完結しておりますので、ここだけ見ても十分楽しめると思います。今回ご覧いただいて、興味がわいたら前後関係も調べていただくと、あの場面はこうだったのか、とか、あれからこうなるのか、ということが分かってより楽しめるんじゃないでしょうか。それが歌舞伎を楽しむ上でのひとつのポイントかもしれませんね。

舞台写真:『沼津』茶屋娘おくる(平成25年9月巡業公演)ⓒ松竹

 

ー夜の部の『松浦の太鼓』の見どころはどんなところでしょうか?

『松浦の太鼓』は、敵討ちで有名な『忠臣蔵』の外伝物です。日本人が昔から大事にしてきた有名な物語の、いわば“サイドストーリー”で、敵討ちの相手である、吉良上野介(きらこうずけのすけ)の隣の家に住んでいる、松浦鎮信というお殿様の物語です。

忠臣蔵の討入りがあった夜に、“隣の家では何があったのか”というお話。隣の家のお殿様と討入りする浪士の大高源吾が、同じ師匠について俳句の勉強をしている俳諧の友で、大高源吾の妹のお縫が、松浦侯のところでご奉公にあがっているという関係もあり、松浦のお殿様は、赤穂浪士たちに並々ならぬ思い入れがあるんですね。わがまま放題で癇癪持ち。すぐ怒り、そして自由で愉快な、お殿様らしいお殿様です。隣の家から聞こえる太鼓の音がポイントで、それが題名にもなっている『松浦の太鼓』です。『忠臣蔵』を知らずにご覧いただく方には、とってもハラハラドキドキしながらご覧いただける場面だと思います。

この作品は三代目歌六のために書き直された物なので、お殿様のちょっと癇癪持ちでわがままなところや、結構すぐに機嫌が良くなったり悪くなったりするところなんかは、もしかしたら実際に三代目歌六さんが持っていた部分なのかもしれません。そんな所を想像するのも楽しみのひとつですよね。先程少しお話しした秀山十種のひとつでもあり、播磨屋で大事にしている演目です。最後まで楽しんでいただけたらと思います。

舞台写真:『松浦の太鼓』お縫(平成27年10月御園座)ⓒ松竹


☆米吉さんへプライベートインタビュー☆


ー歌舞伎座での昼の部と夜の部の間はどのように過ごされていますか?

お芝居を拝見したり、長い時間が取れるときは外へお稽古事に出かけたりする時もあります。朝の一番と夜の真ん中くらいの演目であれば充分可能なんですよ。歌舞伎座周辺の喫茶店でゆっくりしたり、買い物に出かけたりすることもあります。

 

ーとてもしっかりとスマートな米吉さん。リラックスしているときはどんな時でしょうか?

スマートかは分かりませんが、基本身構えずにいますので、常に脱力状態なのかもしれません(笑)。疲れたときはダラダラゴロゴロしちゃっていますし。それが一番楽ですね。あとは、太るので控えなきゃなんですが、甘いものを食べることも好きです。

 

ーファッションのこだわりを教えてください。

あまりこだわりはないのですが、襟付きのシャツを着ることが多いかな……。って、こんな話で良いんでしょうか(笑)。


【公演概要】
■タイトル 「秀山祭九月大歌舞伎」
■日程・会場
2019年9月1日(日)~9月25日(水) 歌舞伎座
昼の部 午前11時~ 夜の部 午後4時30分~

以下貸切公演※幕見席は営業

昼の部:9月5日(木)、6日(金)、8日(日)、9日(月)、10日(火)、11日(水)、16日(月・祝)
■公式ホームページ https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/630

(2019,09,13)

photo:Hirofumi Miyata

Interview&text:Akiko Yamashita

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