新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、3月から公演を中止していた東京・歌舞伎座が5ヶ月ぶりに公演を再開します。その第1弾として行われるのが『八月花形歌舞伎』。

本公演に出演する松本幸四郎さん、市川猿之助さん、片岡愛之助さん、中村勘九郎さん、中村七之助さんが7月13日、制作発表に出席し、公演にかける今の心境などを語りました。

写真左から中村七之助さん、片岡愛之助さん、松本幸四郎さん、市川猿之助さん、中村勘九郎さん

 

まずは松竹・安孫子正副社長から「8月は本来1808席の半分以下の観客数823席で行います。経営状態は正直、厳しいですが」と辛い心境を語りつつも「歌舞伎、演劇の火を消してはいけない。歌舞伎を上演することによって前向きな姿勢を示したい。世の中の状況をみながら、元の上演形式に進みたい」と力を込めて話しました。

 

幸四郎さんは、ようやく歌舞伎座の幕があがる事を喜びつつも、初日から楽日まで安全に上演ができる事を目指したい、と思いを語ります。「歌舞伎座は12ヶ月ずっと舞台をやっている劇場です。この8月はその12ヶ月の最初の1ヶ月目だと思いながらやりたいです」とやる気十分。

 

猿之助さんも「開幕に向けて喜ぶ一方で本当に初日の幕が開けられる保障はまだまだございません。情勢を見守りつつ、我々は我々でできることをし、気を引き締めながら、戦いながら第一歩を踏み出したいと思います。またこの先どうなるか、と役者、スタッフが感じている不安も取り除きたい」と慎重に言葉を選びながら話しつつ、「今回『義経千本桜 吉野山』で七之助くんと久しぶりに一緒にできる事となりましたが、こういう機会がないと実現できなかったかも」と七之助さんに目線を送りつつ笑顔。

 

今回の公演では客席を前後左右1席ずつ空けて観客が座るほか、飛沫感染対策として、役者の屋号「高麗屋!!」「澤瀉屋!!」「松嶋屋!!」「中村屋!!」などと呼びかける「大向こう」をはじめとする掛け声が禁止され、観客は役者に拍手のみでエールを送ることとなります。

 

これについて愛之助さんは挨拶の中で「見得を切って掛け声などがいただけないというのは、非常にガクッとくるものでして。で、それなら大向こうはSE(音響)で入れたらいいんじゃないか、と松竹のスタッフに提案したんです」その言葉に幸四郎さんと猿之助さんは顔を見合わせて笑い、勘九郎さんはこらえきれず袖で顔を覆いながら吹き出していました。「でも、SEの声を聴いて、(本物の大向こうをかけようとする方たちが)『声をかけていいんだ!!』と間違ってしまうかもしれないという事で却下されてしまいました」と苦笑いしていました。

SEの話で笑いを堪える勘九郎さん

 

勘九郎さんはこの八月花形歌舞伎の興行次第では、他の劇場、芝居をしている方々にご迷惑をかけてしまう事にもなりかねないので、慎重に取り組みたいと語りつつも「なお、私は第二部で『棒しばり』という踊りをやりますが、私が演じる役は長い棒に手を縛られて踊るので、ソーシャル・ディスタンスがいちばん守られる役でございます。安心してご覧ください」と両腕を左右に広げ、次郎冠者の振りを見せて笑いを誘います。

 

そして七之助さん。「自粛期間中、自宅から歩いて歌舞伎座まで来て『早く舞台が再開できますように』と歌舞伎座の神社に手をあわせていました。その願いが叶って嬉しいです」と微笑みを浮かべつつも「今この瞬間もコロナと戦っている医療従事者の方、また九州豪雨で被害を受けている方もおり、日本はどうなってしまうんだろうという状態です。歌舞伎役者は舞台に立たないと何もできないので虚しさを感じていますが、歌舞伎座に来ていただいた方には少しでもほっこりとした気持ちになっていただけたら。新しい歌舞伎の一歩を共有しましょう」と力強く述べていました。

 

質疑応答でこれからの歌舞伎の在り方について問われた猿之助さんは「今この状態は次の歌舞伎を生み出す良い機会になるのではないか。100年、200年のスパンで変わっていく、第一歩の第一歩になるのでは」、また七之助さんも「生の舞台はなくしたくないですが、生と映像で観る事が半々になるのかなあ。VR(バーチャルリアリティー)を取り入れた上演も試験的にやってみたいですね」と未来を見据えた意見を提案。

また、自粛期間中何をしていたか?の問いに「世間の人達は(DIYで)本棚を作り、髪を染めたり料理をしたりしていたそうですが……全部やりました(笑)」と笑う幸四郎さん。

「本棚は渋谷のIKEAで見て帰宅してからネットで購入、また髪の毛はギャツビーの……あと、ノンフライヤーの鍋が…」と詳細に語り出したので、「宣伝してどうするのよ」と猿之助さんに突っ込まれて皆大笑い。

幸四郎さんに突っ込む猿之助さん

 

そして「子どもたちに稽古を付けていました。子どもの成長ぶりに目を見張りましたね。こんなに長く家族と一緒にいる事はなかったので」と家族思いの顔を見せる勘九郎さんでしたが、「稽古の他はゲームしてました!!『あつまれ どうぶつの森』『ドラゴンクエスト』『聖剣伝説』…すべてレベル99になりました!!」とニンマリ。そんな兄の姿を横目で見ながら七之助さんが苦笑していました。

 

今回、歌舞伎座では4部制を初めて導入されます。各部が1時間程度の演目とし、キャストもスタッフも総入れ替えとなり、幕間はなく、音声ガイドや筋書の販売もないという、新しい上演スタイルに挑戦するとの事。そんな歌舞伎座に足を運んでみてはいかがでしょう。

『八月花形歌舞伎』は、8月1日から26日まで、東京・歌舞伎座にて上演されます。

 

【公演概要】

■タイトル 『八月花形歌舞伎』

■日程・会場

2020年8月1日(土)〜8月26日(水) 歌舞伎座

■演目

第一部
河竹黙阿弥 作 連獅子(れんじし)

狂言師右近 後に親獅子の精 愛之助
狂言師左近 後に仔獅子の精 壱太郎
浄土の僧遍念 橋之助
法華の僧蓮念 歌之助

第二部
岡村柿紅 作 棒しばり(ぼうしばり)

次郎冠者 勘九郎
太郎冠者 巳之助
曽根松兵衛 扇雀

第三部
義経千本桜 吉野山(よしのやま)

佐藤忠信 実は源九郎狐 猿之助
逸見藤太 猿弥
静御前 七之助

第四部
三世瀬川如皐 作 与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし) 源氏店

切られ与三郎 幸四郎
妾お富 児太郎
番頭藤八 片岡亀蔵
和泉屋多左衛門 中車
蝙蝠の安五郎 彌十郎

■公式ホームページ

『八月花形歌舞伎』公演情報はこちらをクリック

(2020,07,13)

photo&text:Saki Komura

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