音月桂さんが出演する舞台『スリーキングダムス Three Kingdoms』が2025年12月2日(火)から、新国立劇場 中劇場で上演されます。本作は、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』『FORTUNE』などで知られるイギリス演劇界の奇才 サイモン・スティーヴンスが描く、現代社会の闇を深くえぐる衝撃作。ロンドンのテムズ川で発見された女性の変死体を巡る殺人事件の捜査に乗り出したイギリス人刑事のイグネイシアスが、ドイツ、そしてエストニアへと舞台を移し、事件の真相に迫ります。「観客と舞台をつなぐミステリアスな存在」を演じる音月さんに、本作のお稽古を通して感じていることや見どころ、そしてファッションについてなどを語っていただきました!!

 

―(取材当時)お稽古も中盤かと思います。お稽古の手応えやお稽古場の様子を教えてください!!
すごく楽しくなってきました。初めて台本をいただいて読んだときとは作品の印象がガラッと変わりました。これまで私が携わった作品は、稽古が始まった後も結局、最初に台本を読んだときの印象に戻ってくるということが多かったのですが、今は戻ってくるというよりもどんどんいろいろな方向のレールに進んでいっているような気がして、その過程が楽しくて、普段とは違う感覚で作品に臨んでいます。台本を読んだだけでは想像がつかなかった場面もたくさんあったのですが、(演出の)上村(聡史)さんワールドと皆さんの秀逸なお芝居でゲラゲラ笑いながらお稽古場で過ごしています。こんなに笑うところの多いお芝居だと思っていなかったんですよ。喜劇をやっているのではないかと思うほど、笑いに溢れた現場です。

 

―笑いに溢れているのですね!? 私も台本を読ませていただいたのですが、かなり難解なお話で、実は読み終わった今でも理解できていないところがたくさんあって…。
そうですよね。私も最初に読んだときは、読み切るのにすごく時間がかかりましたし、20何年この役者という仕事をしていて、こんなにも読めない本があるのかと思うほどの台本でした。難しい推理小説を読んでいるような感覚でしたが、今は、お稽古を進める中で、だいぶ消化して、そこに新たなものを肉付けしている最中です。初めてこの作品をご覧になるお客さまが、立体的な舞台を観てどう感じるのか、興味がありますね。立体になるとだいぶ印象が変わると思います。

 

―毎日、笑い転げているということですが、具体的にどんなところが笑いにつながっているのでしょうか?
内容はシュールですし、繊細なテーマを扱っている作品ですが、出演している皆さんの掛け合いの軽快さや、そのときの反応が面白いんですよ。非日常的なストーリーなのに「日常的にある」会話をしていて、そのギャップなのかなと思います。皆さんの間(ま)も絶妙で、私は今、そこに必死に食らいついていっているところです。自分が出ていない場面を観させていただいたときに、改めてこの座組みで、こんなにも素晴らしい方と一緒の舞台に出られることはすごく幸せだなと改めて感じました。それぞれ課題に真摯に向き合って、ぶつかっていらっしゃる姿を見ますし、私にはない引き出しを皆さん持っていらっしゃるから、いい意味でゾクゾクしています。本当に毎日楽しいです。

 

―この作品は、イギリス、ドイツ、エストニアの3カ国のクリエイターによる国際共同制作プロジェクトとして誕生したものです。物語の舞台もその3カ国に渡っています。今回、音月さんは三役演じますが、そのうちの二役は国籍も違う人物ですよね。
そうですね。ただ、もう一つのお役は、客席と舞台をつなぐ、橋渡しのような役なので、私自身はこの3カ国を分けて捉えているというよりも、この物語を俯瞰して見ているような感覚があります。なので、あまり切り替えている感じはしないです。ただ、それぞれの場面に出ていらっしゃる方々を見ていると、ロンドン、ドイツ、エストニアそれぞれの国ならではの匂いや空気を感じられるので、観ている方は小旅行をしているような感覚になるのではないかと思います。私はロンドンやエストニアにはあまり詳しくなかったのですが、ドイツには行ったことがあるんですよ。稽古場でエストニアについての講義を受けさせていただいたり、ロンドンについての資料を読んだりして、今、3カ国について勉強しながらお稽古しています。もしこの国々を知らない方がご覧いただいても、それぞれの国の雰囲気を掴んでいただけるのではないかと思います。そういう意味でも、とてもお得な作品ですよね。1回の観劇で3カ国を旅できるのですから(笑)。

 

―ドイツには行かれたことがあるのですね!!
宝塚歌劇団に在団していたとき、ドイツのベルリンで海外特別公演をさせていただいたことがあります。それが私にとっての初海外でした。初めてということもあって、面白いことだらけで。到着した日は、真夏のような暑さで、半袖でも汗だくになるような気候だったのに、次の日には急に気温が変わって、コートが店頭に並び出すほど寒くなったんですよ。日本では穏やかに四季が流れているのに、そうではない国もあるのだとカルチャーショックでした。何週間か公演をしていたので、その土地の美味しいものを食べたり、休演日にみんなでバスを借りてドラキュラの子孫が残っているというお城を見に行ったり、ベルリンの壁の跡を見に行ったりもしたんですよ。そうしてその土地のことをきちんと知っていくと良さもすごく分かってきますよね。知れば知るほど、噛めば噛むほど、味わいが出てくるのがドイツでした。

 

―この作品に登場するのはハンブルクなので、ベルリンとはまた違うところもあると思いますが、音月さんがドイツで感じた空気感は、この作品の中でも感じることはありますか?
ドイツで特に印象的だったのは、近代的な建物と本当に古くからある建物が、いい意味でミックスされていて、日本と全く違う景色でした。それから、曇りの日が多かったからかもしれませんが、どこか冷たさのようなものも感じました。当時と今では状況が変わっているかもしれませんが、自国を愛しているからゆえ、例えばドイツ語しか受け付けないという方もいて、個々の主張が日本よりもしっかりしているのかなと。今回、伊達暁さんがドイツパートでシュテッフェン・ドレスナーを演じていますが、彼の主張の強さやキャラクター性は私が感じたものに近いかなと思います。

 

―今、演じる上で、音月さんはどのようなことを意識されているのですか?
先ほどもお話ししましたが、観客と舞台をつなぐ役柄は、きっとこの作品や伊礼(彼方)さんが演じるイグネイシアスの頭の中を掻き乱していくような役割でもあると思うのですが、あえて特別な演じ方をしないようにしています。そこにいるだけでいいのではないかなと。この台本と上村さんの演出に身を委ねることで見えてくるものがあると思うので、自分から組み立て作るということは今回していません。それは、ほかの2つの役でもそうなのですが、受け取れるものがとても多い作品なんですよ。ほかの2役も、周りの皆さん、特に浅野(雅博)さんは毎回、お芝居を変えてくださるので、それをしっかりと受け取ることを意識するだけで、私も毎回、変わっていくんです。もちろん、最初はいろいろと考えて取り組んでいたのですが、1人で考えるよりも皆さんの力に甘えた方が、いろいろと調整できるし、発見もあると思っています。

 

―今回、歌も歌われると聞いています。
はい、歌わせていただきます。1曲は元々あるものでそれ以外は、音楽の国広和毅さんが作ってくださったものです。最初に譜面をいただいたときよりはなんとなく自分の体にも馴染んできているのですが、私の歌がこの作品にどのように効果的になっているのかは自分では分かりません。まだいろいろと研究の余地ありだなと思っています。役よりもむしろ歌の方が研究せねばと思っているところです。

 

―見どころの一つにもなりそうですね!!
ただ、今回は、歌を楽しんでいただくというよりは、BGMとしての歌でもあります。この作品はシーンの積み重ねでできている物語なので、そのシーンの間を歌でつないでいくような感覚です。とはいえ、この作品は演じている私たちもまだまだ分からないところが多いんですよ(苦笑)。伊礼さんもおっしゃっていましたが、客席で客観的に観てみたいです。きっと客席で観ると、なるほどと分かることが多い作品なのではないかなと思います。実は演じている私たちよりも、客席で観る方の方が作品への理解が深まるのではないかとも感じます。そういう意味でも“新感覚”な作品になっているのではないかと思います。

 

―伊礼さんや浅野さんのお話も出てきましたが、共演者の皆さんはいかがですか。
皆さん、本当にすごい方たちです。この人たちと一緒に舞台に立てるんだと思ったら嬉しくてニヤニヤしてしまいました。筋金入りの舞台俳優ばかりなので、「皆さん、お忙しくて、舞台で大活躍されている方々ばかりなのに、よく集まりましたね」と思わず聞いてしまったほどです(笑)。私はこのカンパニーでは芸歴が長い方かもしれませんが、学ぶことがたくさんありすぎます。浅野さんや伊達さんが果敢に挑戦されている姿を見て、私たちも感化されて、自分にもほかにできることがあるのではないかと思うようになりました。

 

―ありがとうございました!! では、改めて公演に向けての意気込みと読者へのメッセージをお願いします。
お芝居を観る、楽しむというよりも、感じていただく作品になるのではないかと思います。だからこそ、受け取り方が人と違ってもいいと思いますし、面白いところも違うと思います。「分からない」と思うことも含めて、五感で感じて観ていただけたらと思います。先ほども言いましたが、3カ国、それぞれの国の匂いや湧き立つような感触があるので、客席にいながらにして私たちと一緒に冒険をしているような感覚を味わっていただけます。気負わずに、フラットな気持ちで、リラックスして足を運んでいただけたら嬉しいです。


▶︎音月桂さんのファッション事情◀︎
―今日のお衣裳のポイントは?
観客と舞台をつなぐ役は、お衣裳が白なんです。それに加えて、今回の作品は不条理で、白でも黒でもない、グレーな内容だと私は思ったので、そのどちらも衣裳で表現しようと白のセットアップに黒のインナーを選びました。普段は白のドレスならば、インナーも透けないようにベージュを選ぶと思いますが、今回はこのアンバランスさが楽しいのかなと思って。私自身は、本当は白黒はっきりした芝居が好きでしたが、今回、この作品のお稽古をしていて、奥行きの深さや「これってどうなんだろう」と想像することの楽しさを教えていただいたように思います。きっと観劇するお客さまは、帰り道に一緒に観に来られた方と「あそこはどうなんだろう」と話すのも楽しいのだろうなと。グレーな作品も面白いんだと改めて感じたので、この作品からインスパイアされて、今日のお洋服にしました。
それから、白を着ると、どうしてもシワや汚れが気になってしまうし、それが目立たないシワシワになってもいい加工のものも苦手だったのですが、今までの自分にないものを受け入れようと思ったこともこのお洋服を選んだ理由です。それも『スリーキングダムス』に影響を受けてのことだと思います。

 

―普段はどのようなファッションをされているのですか?
原色のピンクや黄色などの色合いの強いものを着たいときもあれば、シンプルにデニムと白いTシャツというようなときもあって、自分でもコレというのが分からないんです(笑)。毎朝、その日の気温や気分で選ぶのですが、本当に毎日バラバラです。クローゼットの中もいろいろな色の洋服が並んでいます。宝塚の頃はパンツしか履いていませんでしたが、最近はスカートも履きますし、ワンピースも着ます。

 

―最近のマイブームは?
BTSが好きで、それをきっかけに韓国語を勉強しています!! 生まれて初めてファンクラブというものにも入りました。これまでは推していただく側でしたが、初めて推す側になって考え方も変わりました。例えば、ファンミーティングで皆さんとお会いしたときに、これまでは涙を流していらっしゃる方を見ると「涙で前が見えなくなってしまうのに」と思っていましたけど、実際に私も会ったら泣いてしまうと思います(笑)。こういう気持ちだったのかと皆さんの気持ちが実感できましたし、だからこそ、舞台に立つときの思いもまた変わったなと思います。

 

【profile】
音月桂/Kei Otozuki
1980年6月19日生まれ。埼玉県出身。

1996年 宝塚音楽学校入学。
1998年 宝塚歌劇団に第84期生として入団。
宙組公演『シトラスの風』で初舞台。その後、雪組に配属。
2010年 雪組トップスターに就任。
華やかな容姿に加え、歌、ダンス、芝居と 3 拍子揃った実力派トップスターと称され、 2012年12月『JIN-仁/GOLD SPARK!』で惜しまれながら退団。
現在、様々なドラマ、映画、舞台などに出演中。

■公式Instagram

https://www.instagram.com/keiotozuki_official/
■公式X

https://x.com/otozukiofficial


【公演概要】
■タイトル
舞台『スリーキングダムス』
■日程・会場
2025年12月2日(火)~12月14日(日) 新国立劇場 中劇場
■作 サイモン・スティーヴンス

■翻訳 小田島創志

■演出 上村聡史
■出演
伊礼彼方 音月桂 夏子
佐藤祐基 竪山隼太 坂本慶介 森川由樹 鈴木勝大 八頭司悠友 近藤 隼
伊達暁 浅野雅博

(2026,12,02)

photo:Hirofumi  Miyata/interview&text:Maki Shimada

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