新日本プロレスのエースとして長きにわたって活躍している棚橋弘至選手が、202614日の『WRESTLE KINGDOM 20 in 東京ドーム』をもって現役生活に別れを告げることを発表しました。棚橋選手に26年間の現役生活を振り返ってもらうとともに引退への想いを聞きました。

 

―14日、東京ドーム大会にて引退されます。改めて東京ドーム大会への意気込みを聞かせてください!!

キャリア26年間の感謝を伝えたいと思います。この26年間、本当に多くの方の応援とちょっとのブーイングをいただきました(笑)。その感謝を伝えるためにも、202614日時点のベストのパフォーマンスができるように、しっかりコンディションも整えていきます。

 

どのような想いから引退を決めたのですか?

まず、202312月に「新日本プロレスの社長になってほしい」と打診を受けました。「形だけの社長ではなく、しっかりと人を動かして、数字を見ることができる職業としての社長を目指してほしい」と。僕はまだまだ現役を続け、チャンピオンを目指して頑張りたかったので、「考えさせてください」とお伝えしたのですが、その日のうちに「僕は疲れたことがないから社長業も100パーセントできるな」と自分の中で答えが出て、「引き受けさせていただきます」とお伝えして社長を務めることになったんです。ただ、そのときに「現役はあと1年」ということも言われまして。1年では感謝の気持ちを伝えきれないと思ったので、「2年やらせてください」とお願いして、今があります。

 

そんな経緯があったんですね。この2年間、社長という立場で見てきた「新日本プロレス」はどんな景色でしたか?

チャンピオンになったころから、営業のスタッフたちに動員数を聞いて、前回よりも売れているのかどうかを確認していたんですよ。なので、社長としてやらなければいけないことは現役のときからできてはいたんです。それが具体的な売上の細かい数字なのか動員数なのかという違いだけで、僕は着々と社長への道を歩んでいたのかもしれないですね。2016年頃に何かのインタビューで、「将来は新日本プロレスの社長になります」と話していたんですよ。なので、結果的にそこに落ち着いたのだと思います。

 

そうすると、引退後は社長業を続けていくということですね。

できる限り続けたいと思っています。社長の任期は2年で、株主総会で社長続投か交代かが決まるんです。なので、こうしたインタビューも大事です(笑)。しっかりと社長業への考えを示して、ビジョンを持っていることを伝えないといけないですから。社長業1本になっても、きちんとできるという信頼を得ていかないといけない。選挙活動に近いですね(笑)。

 

なるほど。ちなみに、プロレスとはまた違う社長業の面白さをどのようなところに感じていますか?

まだその域には達していないかなと思います。社長としてまだ大きな事業をスタートできていないので、今はそのための土台作りをしているところです。

 

プロレスラーとしての棚橋さんはこの26年間の中で、思い出に残っている出来事がたくさんあったと思います。今、振り返って、どんな出来事が真っ先に浮かびますか?

一番大きな転機になったのは、初めてIWGPヘビー級のチャンピオンになったときです。ここから絶対に自分が盛り上げていくんだ、という一つの決意が固まった瞬間でした。それから、2020年のコロナ禍もとても印象深いです。2月から6月半ばまで大会が止まってしまって、その後も無観客試合になり、有観客が可能になってからもお客さんは声出しができず、拍手のみの応援になったんですよ。その後、20229月の後楽園ホールでやっと歓声が戻ったとき、嬉しくて泣きました。自分の試合がどう、というよりは、声を出して応援されることの喜びや大切さを改めて感じました。

 

やはりコロナ禍は相当、苦しかったんですね。

そうですね。ご来場いただいたファンの方に喜んでほしい、盛り上がってほしいという気持ちは、プロレスラーの中で「勝ちたい」という気持ちと並列にあるんですよ。もちろん、勝ちたいしチャンピオンになりたい。でも、同じくらい来てくださったお客さんに喜んでもらいたい。そう思ってみんな試合をしていると思うのですが、歓声がないことで、喜んでくれているかどうかのバロメーターがなくなってしまうんです。拍手はありましたが、これで楽しんでくれているんだろうかと思い、それが一番苦しかったです。

 

プロレスラーとして棚橋さんが一番大切にされてきたこと、信念も教えてください。

常に考えていたのは、見ている人の想像を超えたいということでした。ファンの方が「この選手とこの選手が戦ったらこういう試合になるんじゃないか」と予想している以上のムーブをしたり、驚きを与えたいです。僕は子どもの頃にプロレスを見て、「こんな技を食らったら負けるよな」と思っていたのに返したときに心が震えていたので、そう思ってもらえるような試合をすることを目標にしていました。これからもそういった新日本プロレスでありたいですし、期待には期待以上で応えたいです。

 

棚橋さんにとって「プロレス」とは?

プロレスは生き方だと思います。長いキャリアの中で、いいときもあれば悪いときもあるし、試合の中でも攻めているときもあればやられているときもある。人生も一緒ですよね。いいときもあれば悪いときもあって。いいときと悪いときというのはトントンなんですよ。そう考えたら必要以上に落ち込まなくていい。辛いときも凹みすぎないで前を向くマインドをプロレスから学びました。なので、僕にとってプロレスは生き方です。

 

では、「新日本プロレス」はどんな存在ですか?

それはもう大恩人です。僕は新日本プロレスがあったからこそプロレスラーになって、充実したレスラー人生を歩ませていただいて、今は社長をやらせていただいています。僕の父が(アントニオ)猪木さんの大ファンだったんですよ。僕の名前の「至」という字は猪木さんの本名から一字いただいて、父がつけたものなんです。なので、まさに導かれるように新日本プロレスに入門して社長になったように思いますし、この流れは、うちの父が作ったんじゃないかなと。

 

そうすると小さい頃からプロレスラーに憧れていたんですね。

はい、幼少期から。小学校低学年の頃、毎週金曜8時にテレビで放送していたので、おばあちゃんと一緒に見ていた記憶があります。ただ、改めてプロレスを熱中して観るようになったのは高校生のときです。そこから人生が1000倍楽しくなりました。もし、プロレスを観たことがない人がいたら、まずは観ていただきたいです。じゃあ、どうすればプロレスファンが増えるかといったら、一人でも多くの方に届けるしかないんですよ。待っていてもダメなので、こちらからお届けするプロレスをこれからも続けていきたいと思います。「見つけてください」ではなく「こんなんありますけど、どうでしょうか」と伝えていく。

 

それは引退後の夢や目標でもある?

そうですね。

 

今、後輩たちに言葉をかけるとしたらどんな言葉をかけたいですか?

僕のキャッチコピーは「100年に一人の逸材」という後輩泣かせのキャッチコピーですが、棚橋を超えるようなレスラーが次々と現れることを僕は願っています。

 

出てきてしまったらキャッチコピーの通りにはいかなくなってしまいますが、それでも出てきてほしいという気持ちが大きい?

出てきてほしいですね。社長なんで売り上げを上げないといけない(笑)。でも、昔、ビジネスが厳しかったときに、ベテランレフェリーの(タイガー)服部さんに聞いたことがあったんですよ。「こんなにも頑張っているのに、どうにもビジネスが上がらない。どうしたらいいんですか?」って聞いたら、「そんなん簡単だよ。棚橋があと5人いればいいんだよ」って。そのとき、なるほどと思いました(笑)。ただ、今は海野(翔太)、成田(蓮)、辻(陽太)、上村(優也)、大岩(陵平)といったバラエティーにとんだ選手もたくさんいるし、成功する形は整っていると思うので、望んでいた未来にたどり着いているような気はします。

 

プロレスラー生活の中で注目される機会も多かったと思いますし、大きな会場のリングに立つときなどプレッシャーの大きな試合も多かったと思いますが、棚橋さんはそうしたプレッシャーをどのように跳ね除けているのですか?

僕は生まれてから緊張したことがないんですよ。なんで緊張するのかといったら、いい試合をしたいとか、勝ちたいとかっていう思いがあるからですよね。でも、それって非常に前向きな思いじゃないですか。だから、まずはいい状態であるというのを認識する。「緊張しているということは、あなたにとっていい状態なんですよ」と考えるんです。それから、ファンの人の期待に応えたいという思いもあるはずですし、それが緊張につながっていると思います。

期待というのは喜びですよね。応援してもらっているということも含めて。なので、その期待をやる気に変える。その2つができたら完全に“Ready”状態になるので、心の状態をフラットにする。僕は、ファンの期待を喜びにするということに早くに気付いたので、他の選手の精神状態よりもかなりいい状態でゴングが鳴っていました。そうすると開始12分でペースを掴むことができるんですよ。僕はヘビー級の中では肉体的には小さい方なので押される展開も多かったですが、結果、試合として盛り上がったんです。こうしたことを本来は後輩に伝授しないといけないんですが、なかなか聞かれる機会がないので、ぜひこの記事を読んでもらいたいですね。

 

ぜひ新日本プロレスの皆さん、読んでください(笑)!! これまでも年齢を重ねたりスタイルを変えなければいけなくなったりと、いろいろな状況の変化があったと思いますが、前進するために変わることへの躊躇などはどうやって乗り越えていますか?

乗り越えている最中かもしれません。僕はいじっぱりで、できないことへの対応で苦戦したこともありましたが、今は今の自分を受け入れて、できないことを嘆くよりも、できることで可能性を生み出すっていう方向に向かっています。これまではどの選手よりも体力、技術、パフォーマンスで負けたくなかったんですが、年齢とともに体力は下がるけども、技術は上がるというようにその年齢なりの戦い方がある。最終的に自分がどうありたいかということよりも、ファンの方により楽しんでもらうという方向に重きを置いているのだと思います。

 

ありがとうございました!! では、14日の東京ドーム大会は新コスチュームで登場されると聞いています。ぜひコスチュームについても教えてください。

僕は毎年、14日にコスチュームを変えていて、変え続けて15年以上になります。普段は、ドームでお披露目してそれを1年間使うのですが、来年は1試合のためだけに新しくします!!

 

今日は2025年のコスチュームでのお写真も撮影させていただきましたが、コスチュームのこだわりは?
共通しているのは、とにかく華やかなものにするということです。それから、白と赤を必ず使うようにしています。戦隊ものでは赤が中心の色という印象がありますよね。主役がまとう色だと思っているので、赤を入れるようにしています。それから、白も好きな色なので、赤と合わせて使っています。ガウンのデザインにもこだわりがあって、お腹の部分が開いているのは、ベルトを巻いた時に、ガウンを着たままでもベルトが見えるようにしています。

 

最後に改めて14日の東京ドーム大会に向けて、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

まずは腹筋を取り戻します。そして泣かない。これはふりですからね(笑)。どの時点で泣くんだろう。入場から泣いていたらファンの方も応援しづらいと思いますので、笑顔で入場して、笑顔で去りたいと思います。


▶︎棚橋弘至さんのファッション事情◀︎

今日は私服での撮影もさせていただきました。今日のお洋服のこだわりやポイントを教えてください!!

最近はセットアップを着ることが多いんですよ。ここ2年でセットアップが5着くらい増えています。今日のセットアップはBEAMSさんのものですが、ゆったりめのデザインで僕が持っている中では珍しい方です。インナーのTシャツは新日本プロレスのグッズTシャツです。差し色になるかなと思って着てきました。僕は、プロレスTシャツをおしゃれに着こなすというのがファンの頃からの夢だったので、普段使いできるようなものを作りたいんですよね。私服で着てもあまり違和感のないデザインになっているのかなと思います。

 

profile

棚橋弘至/Hiroshi Tanahashi
1976
1113日生まれ。岐阜県大垣市出身。O
“100
年に一人の逸材というキャッチコピーで、プ女子(プロレス女子)ブームを牽引する新日本プロレスのエース。メインの試合で勝利した際の締めは「会場の皆さん、愛してま~す!」で大合唱するのがファンの間でのお約束。立命館大学法学部に進学し、1999年卒業後、新日本プロレスに入門。同年1010日、真壁伸也(現・刀義)戦でデビュー。その後、当時の団体最高峰のベルト、IWGPヘビー級王座を、最多記録となる8度戴冠している。
リング外ではプロレスラーらしい肉体とプロレスラーらしからぬ柔和なマスクを掛け合わせて、ドラマやバラエティー番組などでも幅広く活躍。20189月には、新日本プロレス創立45周年を記念して製作された映画「パパはわるものチャンピオン」(配給:ショウゲート)で主演を務めた。
2019
6月には著書「カウント2.9から立ち上がれ 逆境からの「復活力」」(マガジンハウス)20216月には「HIGH LIFE 棚橋弘至自伝1」(イースト・プレス)202212月には「その悩み、大胸筋で受けとめる 棚橋弘至の人生相談」(中央公論新社)を発売。

20251023日には、引退を控える棚橋選手のを記録した写真集「ACE100(小学館集英社プロダクション)20251218日にはKADOKAWA「棚橋弘至のプロレス観戦入門 プロレスの世界へようこそ」の発売が決定している。

X(Twitter) tanahashi1_100
Instagram hiroshi_tanahashi
ブログ 「棚橋弘至のHIGH-FLY http://ameblo.jp/highfly-tana/
WEAR @highflyace


【公演概要】

タイトル

WRESTLE KINGDOM 20 in 東京ドーム 棚橋弘至引退

日程・会場

202614() 東京ドーム

公式ホームページ

https://wrestlekingdom.njpw.co.jp/

(2025,12,24)

photo:Hirofumi Miyata/interview&text:Maki Shimada

#NorieM #NorieMmagazine #ノリエム #棚橋弘至 さん #新日本プロレス

下記のリンクのインスタグラムにインタビュー撮影時のアザーカットを公開致します!!

お見逃しなく!!インタビューの感想もぜひコメントください。

https://www.instagram.com/noriem_press/