舞台『怪人21面相』は「グリコ・森永事件」を題材に、劇作家・野木萌葱さんが書き下ろしたオリジナル作品で、2006年に同氏主宰の劇団「パラドックス定数」版が上演され、2017年には和田憲明さん演出による「ウォーキング・スタッフプロデュース」版が上演され、第25回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞し、多くの注目を集めた作品です。
今回、演出を務めるのは数々の舞台作品へ俳優として出演し、近年演出家としても活動の幅を広げている古谷大和さん、四人の登場人物の中で、新聞記者・鳥羽山基を演じるのは、定本楓馬さん。お二人に本作への意気込みや作品への向き合い方、さらにはファッションのこだわりなどを語ってもらいました!!
ーこの作品の演出が決まった時はどんなお気持ちでしたか?
古谷さん「近年演出をさせていただく機会が増えていて、いろいろな作品や、人たちと関わりながら演出をしてみたいと思っていましたので、今回お話をいただき。素直に嬉しかったです。普段の僕の露出している雰囲気からするとコメディ作品が来るのだろうと思っていたので、脚本をいただき、面食らいました。なぜこの作品を僕に任せてくれたのか?という想いを制作の方とお話したり、以前賞を獲得したこの作品を今回僕が担当する意味
や想いなどもお話し、脚本の野木さんともお話したことで、ようやく真っ直ぐにこの作品に向き合えてきていると感じています。最初にお話を聞いたときと今では、心持ちも違って来ていて、あの時感じた嬉しい気持ちから、やりがいを感じて楽しみに変わってきています」
ーご自身の印象と作品の印象が違うとお話されていましたが、最初はこの作品とどのように向き合っていったのでしょうか?
古谷さん「周りの方が持ってくださっている僕自身の印象というのは、面白い、楽しげなキャラクターだと思うのですが、僕自身は常にハッピー人間という感じではないんです。人前に立って、自分を応援してくださっている方が客席に座っていらっしゃると、楽しんでもらいたい、楽しませたいという気持ちが働いて、そういう印象を持ってくださると思うのですが、普段はシリアスな作品も好きで、出演してみたい、関わりたいと思っているので、この作品の温度は普段の僕と一緒だと思っています。どんな作品でも同じですが、まずは作品について調べます。それが一番最初にやることで、今回もそうでした。フィクションではありますが、事実を元にしたお話ですので、グリコ・森永事件について、たくさん調べました。小説を読み、映画もみて、実際の資料や警察関係の方のお話、図書館で新聞も読みました。まずは事実を把握するために、事件のことをいろいろな角度から調べました」
ー定本さんはこの作品に出演すると決まったときはどんな気持ちでしたか?
定本さん「嬉しかったです(笑顔)。別の作品でご一緒してきた方々と新しい作品を作れることが純粋に嬉しかったです。舞台『怪人21面相』は事実を元にしたフィクションですので、台本を読んでいても、正解がどこにあるのか?自分がこの芝居で伝えたいことがどこにあるのか?ということがまだ定まっていませんが、それはいろいろな伝え方ができるからだと思っているので、本当にすごくやりがいのある作品に挑戦させていただけるなという嬉しさがあります」
ー現時点で古谷さんが考えいてる演出の中で定本さんに期待するのはどんなことでしょうか?
古谷さん「楓馬君とは、シリーズ作品で3回ほど共演していますが、お芝居も人柄も本当に素晴らしいと思っているので、彼が出演してくれることがとても嬉しいです。演出プラン全体については内緒ですが、楓馬君の役は、鳥羽山基(トバヤマハジメ)で、雰囲気は普段の彼の印象からはかけ離れた役柄です。楓馬君は本当に穏やかで、器用。周りとのコミュニケーションも上手で、周りも見えている彼が、ものすごく苦しんで、鳥羽山基と向き合って役を作ってくれるといいなと期待しています」
ー具体的な部分で定本さんにどんなところを意識して欲しいと考えていますか?
古谷さん「一番分かりやすいところで言うと鳥羽山は楓馬君の実年齢よりも少し高く設定していて、普段の彼の人となりとは真逆の人間性をほかのキャストが作る登場人物とのバランスを考えて作ってもらいたい。結構難しいことを要求していると思います。他の役者を見て、こっちに振り切った方がいいなというところは全力で振り切って欲しいです。ともすれば、“何?これ本当に楓馬君?”と思われるような役どころになるんじゃないかなと思っています。この部分は、もしかしたら他のキャストがやった方が良かったのでは?というところも敢えてバランスを考えて彼にあてがっています。すごく難しいと思いますが、彼ならできる!という期待もかなり込めていて、少なくとも僕が知っている彼の役作りからは全く違うところに行かないと辿り着けないかもしれません。すごく端的に言うと悪くて大人でダークでアダルティなところを強く出して欲しいとオーダーしようと思っています。今初めて言いましたので、隣でそうなんだと思っていると思います」
ー古谷さんからのオーダーを受けて、どう役に取り組んでいこうと考えていますか?
定本さん「役作りについては本当にそうだなと思って聞いていました。共演者の皆さんと比べると、皆さんが感じている僕の印象と役がかけ離れているので、そこに溶け込むところから始まる位に、この作品と今の僕を照らし合わせると浮いている存在だなと思っています。鳥羽山基という役は、自分の考えを大事にし、それを他人に合わせようとせず、自分はこう思ったらこうなんです!何かありますか?悪いことありますか?みたいなに良くも悪くも自分の芯がしっかりある人です。一方で僕はやはり周りを見て、気にするタイプだと思うので、自分の性格とは真反対ですし、そういうところも含めて新しい挑戦だなと思って頑張りたいです」
ーこれからお稽古を通して役を作っていくと思いますが、定本さんが役作りでしているルーティンはどんなことですか?
定本さん「古谷さんのお話にもありましたが、作品に関わることを調べたり、演じる役に似ている人物像を探してみたり、自分の中にないものを作品や資料を参考にしながらイメージを固めていったりしています」
ー何度か作品をご一緒したとお話頂きましたが、お互いにどんな印象をお持ちですか?
定本さん「最初は醸し出す雰囲気が怖かったです(笑)!」
古谷さん「よくそうやって言われんですよ(苦笑)!」
定本さん「どう話しかけて良いのか分からなかったところもあって。でも実際にこうして話かけていただくとすごく気さくで、優しくて、お芝居に対していつも客観的に見ててくださって、褒めてくださいます。人を褒めることってすごく難しいことだと僕は思っていて、シンプルにフィルターを通さずに、お芝居の事を話してくださることがすごく嬉しかったです。一緒にたくさんお芝居をしてみたいとずっと思っていたので、今回一緒に作品を作っていくことが出来るのは嬉しいです。それぐらい素敵だなって僕は思っています」
古谷さん「嬉しい事を言ってくれるね!本当に素敵なお芝居をしているときに「天才だわ」って僕は彼を褒めるんです。その作品は、大きな作品で素敵な役者だらけの中で、
僕の好みの芝居なんでしょうね。一際目立って、すごく良かったと言いたくなるんです。
だから今回の作品に出てくれることが嬉しいですし、心強いです!」
ー古谷さん、定本さんが感じている舞台の魅力を教えてください。
古谷さん「今回のお話は、犯罪者4人が集まっている話です。平たく言うと世間を賑わせた事件の、現実には捕まってない犯人たちをフィクションとして描いています。演劇の中では、誰かが死んでしまうことに切なさと同時に感動を覚えて勇気をもらえたりすることもあります。現実では受け入れられないことを目の前で見て、新しい感性、明日を生きる力、1歩踏み出す力を劇場でもらえると思っています。例えば演劇ではなく、ディナーが美味しかったから明日を頑張れる元気をもらえるということもあると思うんです。まだ演劇や舞台を見たことない方は、安い値段ではありませんが、ちょっと奮発したディナーみたいな感覚で足を運んでいただけたら、もしかしたら明日勇気をもらえるかもしれない。そんな気持ちで劇場の扉を開けてみて欲しいなと思います」
定本さん「そうですね。難しいな。舞台は画面を通さずに、演じている人と観ている人たちとの空間が一緒で、その空気感に浸れて、没入感がすごくあると思います。舞台はなま物なので、毎回全部が一緒っていうことには絶対にならないんです。その人のコンディションや、何を思って舞台に立っているかにもよりますし、普段と違う考えがパッと思い浮かんだり、セリフを言っている中で違う感情が芽えたり、舞台上で生きている今しかない、ここでしか観られない作品を観ることができるのが舞台のすごくいいところかなと思います。日常とは違う世界に入ってみる楽しさがありますので、軽い気持ちで自分へのご褒美みたいな感覚で一度見てもらえたら、すごく嬉しいなと思います。僕らが本気で向き合っているものが皆さんの人生の一部となるよう全力でやっているので、皆さんの人生や生活に彩りを与えられたらすごく嬉しいです」
ー最後にこの作品への意気込み、届けたいメッセージをお願いいたします。
定本さん「届けたいメッセージと言われると、まだ自分の中ではどう届けていいのかすごく迷ってはいます。この事件を起こそうとした鳥羽山基の気持ちを理解したいし、それを届けて皆様が何を思うかは本当に自由なんですけど、でもすごく信念があって、やってることはいけないことですが、その考えに至って、そこまで動ける気持ちの強さを持っているところが、僕はこの台本読んで彼が羨ましいと思うところでした。ご覧になった方がご自分の人生と照らし合わせた時に、何かのヒントになっていたら嬉しいなと思いますし、そういう作品にできるように役を突き詰めて、この作品と全力で向き合って頑張っていきます。楽しみにしていてください」
古谷さん「今日のお話の中で、事実を元にしたと何度かお話しましたが、この作品は、野木さんが作り出してくれたフィクションの物語です。あえて魅力的なという言葉を使いますけど、その中に出てくる魅力的な登場人物たちが出てくるこの物語を野木さんの世界観と今回出演してくださる役者さんたちの素敵さと、そしてほんのちょっと僕の演出を加えて、お客さまに何か心に刺さるものが届くような演劇になるといいなと思って作り上げていきます。お気に入りの服を着て、ご褒美のつもりで劇場に来てくれると嬉しいなと思います。お待ちしております」
▶︎古谷さん&定本さんのファッション事情◀︎
ー今日の衣装のお気に入りポイントとお気に入りのファッションスタイルを教えてください。
古谷さん「お気に入りポイントは、楽ちんなことです。僕は楽ちんなスタイルが好きなんです。今日はスリッパのようなシューズを履いてきましたが、楽な感じで生きていたいんですよ。稽古とかも、楽なスタイルで行って、楽なスタイルで帰りたいんです。今日も取材ですが、“取材なんだからしっかりした服を着なさい”って言われないギリギリの楽なところを攻めたくて、ラフなシャツをインしてベルトしたらきっちりした感じに見えるかな?と。取材が終わったらベルトを外して、シャツをアウトにしようかなと思っています。シャツはオーバーサイズなので暑いけど涼しいです。いろいろな服を素敵に着こなす人が周りにたくさんいますが、楽な感じでさらにかっこいいと真似してみたいって思いますね。
ー1枚で決まるシャツがあるとすごく重宝しますよね!
古谷さん「そうなんですよ!アクセサリーは、付けているとおしゃれっぽく見えるので、それっぽい加工をしたのものをいつも付けています」
ーありがとうございます!定本さんのお気に入りはどんなところですか?
定本さん「僕は、デニムがお気に入りです!僕はデニムがすごく好きで、しかも少し変わった形のデニムが好きなのでそれを探したりしています。
あんまりおしゃれな着こなしとかがよくわからないので、とりあえず上はシンプルにして下だけガチャガチャしていれば、それっぽく見えるかなと思って、今日も自分のお気に入りのデニムを履いて来ました」
ー今熱中していること、はまっていることを教えてください。
古谷さん「まさにこの作品です!普段からずっと熱中していて、趣味にしていることは他にもいろいろありますが、今、熱中してる、はまっていると言うと、やっぱりこの作品に尽きます。この作品の演出のお話をいただいてからやたらとグリコさんと森永さんの商品を買うようになりました。僕はお菓子が好きで、普段からチョコレートをたくさん食べるんですが、いつもの選ぶものを超えて、グリコさん、森永さんの商品を手に取る機会が増えました」
ー考え始めると多面的にいろいろと考えが広がっていく感じですか?
古谷さん「そうです!今回の登場人物で言うと犯人側の4人なんです。事件のことを調べると捕まってないので、犯人側の考えや実はこうだったみたいなことは出てきません。資料で出てくるものは、警察側やマスコミ側のものが多いですが、今回は犯人側の視点なので、その視点で想像してみたり、出てくるアイテムのお菓子や家具もこの時代のものですので、趣味でインテリアを見ていても最新の家具とアンティークを見るのとでは見方も変わりますね。全く関係のないところでも結びついたりするので、いろいろな視点から見るようになってしまうのかもしれませんね」
ーそうなると妄想が止まりませんね!
古谷さん「そうですね。本当にもう妄想は止まらないです。妄想と事実。今回のお話に関しては事実が元になっているんで、本当にあったことはやっぱり本当にあったことですし、実際に使われてたタイプライターとかは本当に出てるものがあるので、妄想だけじゃない事実があったりするから面白いですね」
ー考えることは作品が終わるまで続きますね!
古谷さん「作品によっては終わってからも続くこともあると思います。グリコさんと森永さんの商品はずっとあると思いますから、見る度に思い出しますよね。きっと」
ーありがとうございます!定本さんはどんなことに熱中していますか?
定本さん「熱中してるっていうことではないですけれど、旅動画を見ることがすごく好きではまっています。YouTuberさんが僕の知らない土地に行って、現地の方と話したり、なんかしてるのを見ると、世の中にはこんな人がいるんだ、こんなご飯あるんだ?とかそういうのを見るのが好きですね。いろいろな国の人の生活を見ると自分が生きてる感覚とその人の生きてる感覚や価値の基準が違いすぎて衝撃を受けることもあります。悩みは人それぞれですが、すごいと感心することもありますし、自分も頑張ろう!思えることがたくさんあります」
【profile】
古谷大和/Yamato Furuya
1991年5月4日生まれ。東京都出身。
2012年、舞台作品への初出演を果たし、テレビドラマ、映画と活動の幅を広げている。2021年11月に上演された朗読劇『M・A・D朗毒』で初の演出を務める。その後の演出作は、「おとぎ裁判 第4審」、神戸セーラーボーイズ 定期公演 vol.1 『ロミオとジュリアス』『Water me!〜我らが水を求めて〜』、神戸セーラーボーイズ 定期公演vol.3『なんて素敵にピカレスク』『天使を憐れむ歌。』舞台『怪人21面相』が本格的なストレートプレイの初演出となる。
■公式ホームページ
https://furuya-yamato.com/
■公式Instagram
https://www.instagram.com/furuyamato/
定本楓馬/Fuma Sadamoto
1995年11月23日生まれ。北海道出身。
2016年にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンにて不二周助役で本格的に俳優デビュー。主な代表作にミュージカル『刀剣乱舞』-幕末天狼傳-沖田総司役、『映画刀剣乱舞-黎明-』骨喰藤四郎役、映画「君たちはまだ長いトンネルの中」中谷勇気役、「テレビ演劇サクセス荘」チャップ役、舞台「呪術廻戦」狗巻棘役、水野美紀さんが脚本・演出を手掛ける舞台「僕だけが正常な世界」元気役、MANKAI STAGE『A3!』ACT2!~SPRING 2023~月岡紬役など、映画・ドラマ・舞台などで幅広く活動。
■公式ホームページ
https://fuma-sadamoto.com/
■公式Instagram
https://www.instagram.com/fuma_sadamoto/
【公演概要】
■タイトル
舞台『怪人21面相』
■日程・会場
2025年7月31日(木)〜8月10日(日) 新宿シアターモリエール
■脚本 野木萌葱
■演出 古谷大和
■出演
河合龍之介 章平 定本楓馬 輝馬
■公式ホームページ
https://21mensou-stage.com/
(2025,07,30)
photo:Tsubasa Tsutsui/hair & make up: Saoli Saito/interview&text:Akiko Yamashita
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下記のリンクのインスタグラムにインタビュー撮影時のアザーカットを公開致します!!
お見逃しなく!!インタビューの感想もぜひコメントください。