7月8日(土)から17日(月)まで東京・パルテノン多摩 大ホール、8月には兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにてパルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念『オイディプス王』が上演されます。

人生の不条理を詩的に衝撃的にドラマティックに描き、ギリシャ悲劇の最高峰と称されるソポクレス作『オイディプス王』。期せずして社会的禁忌を犯していたオイディプスの破滅と転落の物語でありながら、紀元前より約2500年にわたり世界の観客を惹きつけてやまない大作です。
上演を前に演出の石丸さち子さん、主役のオイディプスを演じる三浦涼介さんが出席する取材会が開催され、作品への想い、意気込みを語ってくれました。

 

ー『オイディプス王』を上演するにあたって主役のオイディプスは三浦涼介さんをということは最初から決めていたのでしょうか?
石丸さん「プロデューサーからこの作品をやりませんか?というお話をいただき、そしてオイディプス役は三浦涼介さんでと提案いただき、是非!とお願いしました。ちょうどその時は 『マタ・ハリ』という作品で三浦さんと初めて一緒にお仕事をしているときでした。その時に三浦さんが演じていたアルマンという役が魅力的だったので、もう一度この人と一緒に作品を創ってみたいという気持ちが強かったです。『オイディプス王』などのギリシャ悲劇は、様式的に演出されることが割と多いのですが、過酷な運命を背負った一人の人間が、それをどう受け止めていくのかということをリアルに演出ができるのではと考えました。人間は様々な運命を背負って生まれてきますが、その運命との向き合い方を演劇的な様式に頼らず、リアルにやってみたかった。三浦さんとなら何度も『オイディプス王』という作品へ参加してきた私の記憶を覆して新しい演出ができるのではと思いました」

 

ー三浦さんはその石丸さんの気持ちを受けてどう感じましたか?
三浦さん「『マタ・ハリ』で出会わせていただいた石丸さんともう一度一緒にお仕事ができるということが自分にはとても大きなことです。20年ほどこのお仕事をさせていただき、いつもこれでいいんだろうかと悩みながらやっている中で、石丸さんと出会って「楽しい。お芝居をもっとやりたい」と思いました。その作品はミュージカルでしたが、歌うことや歌の表現がある事で深みが広がり、伝わるという事も石丸さんに教えていただきました。昔僕の芝居を見て「お前はこうやって苦しんで一人寂しく生きてきたんだな」と蜷川さんが言ってくれたことがあって、稽古中に石丸さんが僕の芝居に涙を流してくれたときに、この人に伝わっているんだという明確な何かがありました。舞台は、ステージに立ってお客さまの前に行った時に初めてリアクションがあるので、そこまでのお稽古の間は不安な毎日を過ごしています。その中で、この人を信じてついていけば大丈夫だという思いを持って進んでいけたので、このお話をいただいたときに、石丸さんの演出と聞いて「ぜひ!!」と思いました。作品の前に、何よりも石丸さち子演出というところに惹かれ、ついていきたいと思いました。

 

ー実際に稽古が始まって新しい演出という部分はどんなところに感じていますか?
石丸さん「この作品が2500年前に作られ、ずっと生き続けているというその力を本当に実感しています。こんなによくできていて、言葉が残酷で、そして美しい。プロットもうまく張り巡らされている。かつ謎が深い。というのを初めてこの作品を読むように感じています。今までこの作品へ参加したのはコロス役で出演をしたときと蜷川幸雄さんの演出助手として関わったときです。俳優で出演しているときは、自分のセリフや役を中心に考え、演出助手の時は、演出家の思いを叶えるための仕事をしていました。今回の本読みで三浦さんが読んだ時に、わからないことがある中でも台本に真っ直ぐに反応をしながら体現してくれ、その感情の揺れの中に改めてこの作品の偉大さを知りました。運命に立ち向かってきた彼の半生、人を殺してしまった記憶、愛する妻が自らの母だった事実、それら神が彼に課した運命の苛酷さは、巨大過ぎて、戯曲の中では物語の中の出来事として出会ってしまうことがあるのですが、三浦さんは我が事として全部リアルに出会いながらオイディプスを体現してくれたんです。そのときに私は、今までなんでこんなに『オイディプス王』を読めていなかったのだろうと初めて演出家として一から台本を読み直さなければいけないという気持ちになりました。オイディプス王が一人の人間であるということを想像する力がどこか欠けていたのだと思いました。オイディプス一人の運命を超えて、人間はなんて不条理な中で、不合理、不公平な中で生きているのだろう。そして皮肉な運命や苛酷な宿命を背負って生まれてしまった人の生きる辛さはいかばかりかと最近いろいろ起こった事象を思い起こして、こんなにも人間を抉り出し描いている作品に最近出会っていないと思うくらいに感動しました。三浦さんはこの大作に向き合って本当に苦労していると思うし、私もどのようなアプローチで稽古に向き合っていったらこの作品を実現できるのだろうと必死に考えています。読み合わせは素晴らしいスタートラインでした」

 

ー三浦さんは石丸さんが感動を受けた本読みの日はどんなことを意識して臨みましたか?
三浦さん「初めて台本を読んで、初めてキャストの皆さん、スタッフの皆さんと出会うその日は、すごく緊張します。怖いですし、不安の中、現場にくることが多くて、でも現場には石丸さんがいるという安心感もどこかにあって。石丸さんもおっしゃっていたように、ここ最近すごく悲しいことと向き合わなければいけないことが多い中で、作品と通じる部分や、自分が三浦涼介としている部分でわかってしまう部分があったり、そういうところが何か先に進ませてくれました。難しい台本なので、詰まってしまうこともありましたが、初めての本読みは最後まで気持ちが途切れることなく歩めたかなと思いました」

 

ーその時に涙を流す石丸さんを見てどんな気持ちになりましたか?

三浦さん「逆に不安にもなりました。最初の段階で、自分は素直に読んだのですが、足りていない自分がいっぱいいることがわかっているから、お客さまの前に立つまでにどこまで辿りつけるのか。そして素直にそこにまた戻れるのか。理由やいろいろなことを知って、また素直な気持ちに帰れるのかという不安があります」

石丸さん「それは不安に思うことはないです!!理解して、再構築して、作っていくのが稽古ですし、演出家はサバ読みをするんです。稽古をしてどこまで辿り着けるのか。それが見えていないと演出ができないので、私と三浦さんがうまく手を組んでしっかりと稽古をしていけば必ず!!演劇も俳優の演技も嘘なんです。それなのに現実より真実が輝く瞬間がある、そのバランスを考えるのが稽古。あのときに出会った真実からスタートしてを上手に嘘をつけるように。何よりも三浦涼介さんは心が動いたときに一番素敵な発見をするので、そこへ持っていきたいと思っているので不安に思わないでください」

 

ー今回作品で初めて共演する方も多いと思いますが、三浦さんが感じるカンパニーの可能性はどんなところに感じていますか?
三浦さん「本当に皆さん素晴らしい役者さんです。本読みや直接お会いしてお話をする中で尊敬できる部分がたくさんあって、日々たくさん学ばせていただいています」

ー全幅の信頼を置いている三浦さんを筆頭に、石丸さんはこのカンパニーをどう見ていますか?
石丸さん「本当に良い俳優たちが集まってくれました。台本を丁寧に読み解いて、様式性を排除し、リアルな人間と物語を創りあげようとする中、とても繊細な芝居をされる先輩俳優たちがすごく素敵で、三浦さんと良いチームになるキャスティングだなとすごく嬉しくなりました」

 

ー『オイディプス王』というと壮大なスケールを想像しがちですが、今回リアルにという演出で考えている衣裳やセットのイメージはどんな感じですか?
石丸さん「ものすごくオーソドックスなイメージで、衣裳も時代性が出ないものを考えています。王の権力を表現するよりも、一人の人間の繊細さ、複雑さを、柔らかな質感の中に閉じ込めたいと思いました。ギリシャ悲劇のセットは、館があり、館の前にステージがあり、上下に訪れる人のための入り口があるという基本を守りながらも、天にもつながるような神につながるような長い階段があり、その中腹からオイディプス王が現れるというイメージにしています。疫病や食糧難、飢饉に襲われて、救いを求める民衆にとって、オイディプス王は神と自分達の間の人というイメージを強く持ちたいと思っています。とても素敵なセットとなっていると思います」

 

ー若い世代にとっては遠くなりがちなお話でもあると思うのですが、三浦さんから見た現代の若い人たちにも通じる作品の魅力はどんなところでしょうか?
三浦さん「悲劇というところに僕も囚われていたのですが、最後に絶対的な希望というものを持って去りたい。それが伝わればいいなと思います。すごく悲しいお話だったねと帰っていただくのではなく、ひとつ希望を持って帰っていただけたらいいなと思っています。その希望というのは、生きるということだと思います。死なないというところです。僕も寂しいなと考えることはありますが、残された、生きているという希望、生きているからこそできる希望ということを感じています。生きているからには希望があるはずだと思います」

 

石丸さん「オイディプスがどう成長し、何が見えるようになり、気が付かなかったことに気づき、どこに達したのかということを最後のシーンまで稽古して見つけることが楽しみです」

 

ー最後に観に来てくださる皆様にメッセージをお願いします。
石丸さん「ギリシャ悲劇というとすごく難しい印象があるかもしれませんが、謎解きをするうちに、運命の大いなる徒の中で、本当の自分と出会う、とてもわかりやすいひとりの男の物語です。極上のミステリーでもあります。三浦涼介さんという俳優をオイディプスに得たことで、私は新しく、すぐそこにある物語として演出できる気がしています。ギリシャ悲劇の面白さは、大きな悲劇的なカタルシス。劇場に来ていい歌をきく、笑う、日常を忘れさせてくれる物語でスッキリするというカタルシスは素敵ですが、辛い運命、悲劇に吞み込まれるカタルシスにお客様を案内したい、そこにギリシャ悲劇の醍醐味を感じて頂ければ。それを繊細に美しく描きたいと思います」

 

三浦さん「石丸さんと一緒に一生懸命お稽古をやっていく次第であり、この作品の初日が開いたということは、僕がオイディプス王としてステージに立っているということなので、それだけで希望があると思います。ぜひそれを観に来ていただけばと思います」

三浦涼介さんヘアメイク:春山聡子 スタイリング:村瀬昌広

 

【公演概要】
▪️タイトル
パルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念 ギリシャ悲劇『オイディプス王』
▪️日程・会場
東京公演:2023年7月8日(土)〜7月17日(月・祝) パルテノン多摩 大ホール
兵庫公演:2023年8月19日(土) 兵庫県立芸術文化センター  阪急 中ホール
▪️出演
三浦涼介 大空ゆうひ 新木宏典(荒木宏文改め)
浅野雅博 外山誠二 吉見一豊 今井朋彦
悠未ひろ 大久保祥太郎 相馬一貴 岡野一平 津賀保乃 林田航平 小田龍哉 丸山厚人 福間むつみ
皆川まゆむ 笠井瑞丈 鷹野梨恵子 嶋崎綾乃 モテギミユ 栗朱音 藤村港平
▪️公式ホームページ
https://www.oedipus.jp/

(2023,07,12)

phtoto&text:Akiko Yamashita