若村麻由美さんと岡本圭人さん、岡本健一さんが、家族のあり方や親子の苦悩、孤独を体現する舞台『La Mère 母』『Le Fils 息子』。全く異なる2作品に同じ役名で出演、2つの劇場で2作品を同時上演します。
若村さんは、今回の公演で、劇作家フロリアン・ゼレール氏による家族三部作『Le Père 父』『La Mère 母』『Le Fils 息子』の全てにアンヌ役で出演。『Le Père 父』では第27回読売演劇大賞優秀女優賞も受賞しました。『Le Fils 息子』は2021年以来の再演、そして『La Mère 母』は今回、日本初上演になります。
若村さんに本作への意気込みや共演の岡本さん親子の印象、さらにはファッションについてもたっぷりお聞きしました!!

 

―演出家ラディスラス・ショラーさんからのラブコールを受けて出演が決まったと聞いています。改めて、ご出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。
家族三部作全てでアンヌを演じるのは私が世界初だと聞いておりますので、大変光栄に思います。ショラーさんと劇作家のゼレールさんは実は親友だそうです。作家と演出家が互いにわかり合っているというのは素晴らしいことですし、そうしたお二人の作品に参加できるのは本当に幸せなことです。三作品に参加させていただくことでより深くなっていくと思いますし、信頼感も深まっていくと感じています。

 

―三作品共にアンヌという役を演じますが、それぞれ母親、妻など立場もストーリーも違う作品になっていますね。
そうですね。『Le Père 父』ではまだ結婚していない娘でした。『Le Fils 息子』は妻であり、母。ですが、すでに夫との夫婦関係は壊れていて、夫は新しい家族を持っているという状況です。そして、『La Mère 母』では、二人の子どもがいる母親です。まだ夫とは離婚していませんが、すでに孤独な生活をしています。いずれの作品でもアンヌという名前ですが、実は台本には名前は描かれていないんですよ。「母」「父」というように立場で書かれています。それは、(作家の)ゼレールが、特定の誰かではなく全ての母、全ての父、全ての息子へあてて書いた作品だから。名前がないと呼べないので、物語上はアンヌという名前があるけれども、それはその立場を象徴する言葉なだけです。日本でも、家のことを母親に任せて父親は仕事に行くという時代がありましたが、フランスでもそうだったのかと意外に感じるくらい身近なお話になっていると思います。

 

―『La Mère 母』は日本初上演となります。脚本を読んで、アンヌに共感できるところはありましたか。
共感とは少し違うかもしれませんが…愛する夫と結婚して、愛する二人の子どもができて、その家族のために自分の命を全て捧げて生きてきた母が、子どもたちも夫もいなくなり、家にたった一人でいる姿が描かれています。子どもたちにご飯を作ってあげなくちゃいけないということもないし、世話を焼いてあげることもなくなって、突然、「あなたの役目は終わりです」と言われてしまった。「じゃあ、これから私はどうしたらいいの? 今までのことは何だったの?」という思いを一人で吐露するシーンがあるのですが、そのシーンで私は自分の母を思いました。『La Mère 母』は、母親という立場の方が共感して、自身に重ねるのはもちろんですが、実は意外と男性の方が自分の母親を思って胸に迫るものがあるそうです。息子は、自分が自立していくときには自分の未来しか見ていないものですから、母を見捨てていくつもりは全然ない。なので、こんなにも母が悲しんでいるとは思いもよらなかったということだと思います。ゼレールは、家族三部作の中で『La Mère 母』を最初に書いているのですが、そういう意味で男女問わず、どなたにも刺さる物語になっているのではないかと思います。それから、逆に母の立場から考えると、子どもが巣立っていき、突然、「自分の人生なんだから自由にしていいのよ」と言われても、戸惑ってしまうのだと思います。子どもたちが巣立つ頃は、更年期に入る年頃でもあるので、心も体調も不安定になっている時期でもあります。そうした時期にこうしたことが起こり、心の均衡が保てなくなっていくというのはすごく理解できますし、すごく切実なことだと思います。ただ単に「子離れすればいい」という単純なものではないということはすごく分かります。

 

―誰にとっても感じるものがある作品なのですね。今回は、『La Mère 母』と『Le Fils 息子』の二作同時上演になりますが、同時に上演することへの期待や難しさについてもお聞かせください!!
この三部作の中でも『La Mère 母』と『Le Fils 息子』は、ゼレールが同じ役者に演じてほしいと思っていたそうです。今回、日本ではたまたま同じ役者が演じることになったので、きっとゼレールは喜んでくださっているのだろうと思いますし、それを望むということはそれだけの効果があるということだと思います。

それぞれの作品で描かれているのは別の家族ですが、絶妙にリンクするところもありますし、同じセリフもあります。ゼレールの描いた物語は、あくまでも家族の象徴なので、どの家族にもありえる問題を描いているということが分かります。それが両作品に相乗効果を与えています。もしかしたらサスペンスに感じるかもしれません。そして、舞台はお客さんと共に作っていくものですから、その日、その時の一期一会でさまざまなものが生まれます。それは本当にスリルがあることですし、何が起こるのか、演じる私たちも楽しみです。

 

―観客としても、両作品を観ることで完結するところがあるのでしょうか。
もちろん、どちらかだけでも十分、作品を楽しんでいただけると思いますが、両作を観ることで見えてくる深みがあると思います。本当は、家族三部作全てを同時上演するのが良いのでしょうが、それは役者的にはキャパオーバーになりそうですね(笑)。ただ、三部作を通して、その家族の抱える愛があるがゆえの問題が見えてきますし、答えが出ない芝居だということが感じられるのかなと思います。ぜひ、この作品はどなかたと一緒に観ていただきたいですね。観終わった後に、きっと話したくなると思います。誰かと何かを分かち合い、自分の中で消化する、そんな作品だと感じています。

 

―岡本健一さん、そして圭人さんと再びの共演で楽しみにしていることや、これまでの共演を通して感じていることを教えてください。
圭人さんは、お父さんを本当に尊敬していて、お父さんの背を追って演劇の道に入られました。それも相当な覚悟を持ってのことだと思います。そして、素晴らしいチャンスを得て初舞台を踏んだ。初舞台で、『Le Fils 息子』に出演するというのは、なかなかない大きなチャレンジだと思いますが、それを実の親子で演じるというのはさらにすごい。言葉は悪いかもしれませんが、演じるというだけでは済まないリスクみたいなものもあるので。健一さんは、よくぞこれを引き受けたなと思います。圭人さんはチャレンジャーとして臨めますが、健一さんは父としてそれを受け止めなくてはいけないので、精神的にも大変なところがある。しかも、子どもを救いきれないという物語なので、とても大変だったと思います。私は、そうした姿を間近で見て、一緒に作品を作る仲間としてそこにいて、無条件で役者として生まれたての岡本圭人さんを見ているわけです。誕生から見ているので、やはりどこか母親のような気持ちがあります。その後も、毎年、圭人さんとお仕事をしているのですが、その度に見せる彼の役者としての成長がすさまじいので、頼もしいですし、輝いて見えます。今回、さらに深い作品ができるのではないかなと楽しみです。

 

―改めて、読者の方々に向けてのメッセージをお願いします!!
劇場の扉を開けるドキドキ感、ワクワク感は、もしかしたら新しい本を開くときにちょっと似ているかもしれません。しかも、そこで起こる物語は生身の人間が演じ、同じ時間とその時にしかない劇世界を共有する。こんなにすてきなライブ感はないので、ぜひ、「劇場に足を運ぶ」という体験をしていただきたいと思います。そして、そこで感じたことを心の糧として持って帰っていただきたいと思います。今は演劇を観る人も少なくなってきています。ですが、ぜひ今年はチャレンジして、劇場の扉を開いていただけたら嬉しいです。小さな空間で上演しますので、ライブ感もひしひしと伝わるはずです。普段、演劇を観ている方はもちろん面白いでしょうし、演劇を観たことがない方にもぜひ足を運んでいただきたいと思っています。


▶︎若村麻由美さんのファッション事情◀︎
―今日のお衣裳のポイントを教えてください。
『La Mère 母』のポスターで着用している衣裳です。実は、この衣裳は、物語の中でとても重要なキーワードとなっています。同じものではないのですが、「母が真っ赤なドレスを着て出てくる」というシーンがあり、そこが物語の象徴ともなっています。

―プライベートでは、どのようなファッションがお好きですか?
あまりこれというのはないですが、着心地が良いお洋服が好きです(笑)。

 

―最近買ったお気に入りのファッションアイテムは?
ワンピースが好きなので、ワンピースを着る機会が多いですね。日常的には、着心地が良いものが好きですが、“ファッション”と考えると、普段の自分とは違う何かになりたい、何かに飛び込みたいというときに、すごく効果的だと思います。そういう役割もあって、この戯曲の中にも使われているのかなと思います。

 

―そうすると、お仕事で役の衣裳を着ることでお芝居に入れるということもある?
もちろんそうです。衣裳やヘアメイクで、その人物を想定ができるので。それを着ることによって、自分とは違う人間になれるという感覚はあります。

 

―では、例えばプライベートでお出かけするときに、テンションを上げるためのファッションをされるということもありますか?
私は着物も好きなので、着物を着ていくとテンションも上がります。着物は、見ている人もすごく楽しんでくれるというのもありますから。ファッションは、自分自身が楽しんで変身できるし、見ている人も楽しませることができる、素敵なものだと思います。

 

―最後に、若村さんが輝き続けるために、素敵でいるための秘訣は?
なかなかできないことですが、心をニュートラルに戻すということです。いろいろなことがあるから人生はすごく面白いけれども、1日が終わったら、心を一旦、ニュートラルに戻す。ニュートラルな状態が元気、つまり元の気なので、1日が終わったら戻して、安らかに眠り、朝は太陽の光を浴びる。例え、雨が降っていても朝は太陽を浴び、夜は曇っていて月が見えなくても月が出ていると感じるようにしています。私は、太陽を浴びて月を浴びることが好きで、子どもの頃からやっています。

 

【profile】
若村麻由美/Mayumi Wakamura
東京都出身。
仲代達矢主宰の無名塾養成期間中の1987年に、NHK連続テレビ小説『はっさい先生』のヒロインに選ばれ俳優デビュー。エランドール新人賞をはじめ『金融腐蝕列島 呪縛』で第23回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『チルドレン』で 第44回菊田一夫演劇賞、『ザ・空気』『子午線の祀り』で第25回、『Le Père 父』で第27回読売演劇大賞優秀女優 賞を受賞。近年の主な出演作に、【舞台】『ハムレット』(2023年)、『頭痛肩こり樋口一葉』(2022年)、『Le Fils 息子』『首切り王 子と愚かな女』(2021年)、【映画】『老後の資金がありません』『科捜研の女ー劇場版―』(2021年)、『みをつくし料理帖』(2020年)、 【ドラマ】『この素晴らしき世界』(2023年・CX) 『初恋、ざらり』、(2023年・TX)、『科捜研の女 シリーズ』(EX)など。

photo:Hirofumi Miyata/styling:Hiroko Togawa/ hair&make-up: Yumi Hosaka(eclat)/interview&text:Maki Shimada


【Story】
<La Mère(ラ・メール) 母>
アンヌはこれまで自分のすべてを捧げて愛する子どもたちのため、夫のためにと家庭を第一に考えて生きてきた。それはアンヌにとってか けがえのない悦びで至福の時間であった。そして年月が過ぎ、子どもたちは成長して彼女のもとから巣立っていってしまった。息子も娘 も、そして今度は夫までも去ろうとしている。家庭という小さな世界の中で、四方八方から逃げ惑う彼女はそこには自分ひとりしかいな いことに気づく。母は悪夢の中で幸せだった日々を思い出して心の万華鏡を回し続ける――。

<Le Fils(ル・フィス) 息子>
両親の離婚後、学校にも登校せず一日中独り行くあてもなく過ごしていたニコラは、とうとう学校を退学になってしまう。そんなニコラの 様子を聞いた父親ピエールは、離婚・再婚後、初めて息子と正面から向き合おうとする。生活環境を変えることが、唯一自分を救う 方法だと思えたニコラは、父親と再婚相手、そして年の離れた小さな弟と一緒に暮らしはじめるのだが、そこでも自分の居場所を見つ けられずにいた。

 

【公演概要】
■タイトル
『La Mère 母』『Le Fils 息子』
■日程・会場
『La Mère 母』東京公演:2024年4月5日(金)〜29日(月・祝) 東京芸術劇場 シアターイースト
『Le Fils 息子』東京公演:2024年4月9日(火)〜30日(火)  東京芸術劇場 シアターウエスト
鳥取公演:『La Mère 母』 2024年5月5日(日・祝)/『Le Fils 息子』 2024年5月6日(月・休) 鳥取県立倉吉未来中心 大ホール
兵庫公演:『La Mère 母』 2024年5月10日(金)・11日(土)/『Le Fils 息子』 2024年5月11日(土)・12日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
富山公演:『Le Fils 息子』 2024年5月18日(土)/『La Mère 母』 2024年5月19日(日) オーバード・ホール 中ホール
山口公演:『Le Fils 息子』 2024年5月25日(土)/『La Mère 母』 2024年5月26日(日) 山口市民会館大ホール
高知公演:『Le Fils 息子』 2024年5月31日(金)/『La Mère 母』 2024年6月1日(土) 高知市文化プラザかるぽーと大ホール
熊本公演:『La Mère 母』 2024年6月8日(土) 熊本県立劇場 演劇ホール
松本公演:『La Mère 母』 2024年6月15日(土) まつもと市民芸術館 主ホール
豊橋公演:『La Mère 母』 2024年6月29日(土)・30日(日)/『Le Fils 息子』 2024年6月28日(金)・29日(土) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■作 フロリアン・ゼレール
■翻訳 齋藤敦子
■演出 ラディスラス・ショラー
■出演
『La Mère 母』
若村麻由美 岡本圭人 伊勢佳世 岡本健一
『Le Fils 息子』
岡本圭人 若村麻由美 伊勢佳世 浜田信也 木山廉彬 岡本健一

■公式ホームページ

https://www.lefils-lamere.jp/

(2024,04,03)

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▶️2月に開催された『La Mère 母』『Le Fils 息子』製作発表レポートを公開中!!

下記のリンクのインスタグラムにインタビュー撮影時のアザーカットを公開いたします!!お見逃しなく!!

https://www.instagram.com/noriem_press/