坂本龍一さんと高谷史郎さんのコラボレーションによるシアターピース 『TIME』が2024328日(木)に日本初演を迎えます。 

TIME』は、1999年に日本武道館、大阪城ホールで上演され、約4万枚が即完売した公演「LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999」に続き、 坂本龍一さんがコンセプトを立案、全曲を書き下ろし、高谷史郎さんがヴィジュアルを手がけました。 2017年から約4年の製作期間を経て、2021年に坂本さんがアソシエイト・アーティストを務めた世界最大級の舞台芸術の祭典「ホラン ド・フェスティバル」(オランダ・アムステルダム)で世界初演を迎え、高い評価を得た作品です。

日本初公演は、坂本さんの逝去からちょうど一年後の命日にあたる 2024328日に東京・新国立劇場にて開幕します。

高谷さんに作品への想いや坂本さんとのエピソード、クリエーションの原点をお伺いしました!!

 

ーこの作品のスタートとなった種はどんなものだったのでしょうか?

最初からお話しするにはどこから話せばいいのかなと考えてしまうのですが、『TIME』が出来上がった今となっては、自然に存在する時間と人間が捉えている時間との「ずれ」みたいなところがきっと種になっているような気がします。なぜ「ずれているのか」や、何が「ずれているのか」ということではないかと思います。時間の「ずれ」について坂本さんがいろいろな本を読み、僕も一緒に読みながら考えてきたという感じですね。

 

坂本さんが2017年から製作をスタートして、2021年の初演まで約4年の期間がありましたが、その製作過程の中で印象に残っていることは?

坂本さんはニューヨークで、僕達は京都で製作をしていましたので、メッセンジャーなどでやり取りはできましたが、頻繁に会って打ち合わせをすることが難しく、その辺の調整が大変でした。どうやって、いつ会うのかなど、調整しながらでしたが、そのことも製作過程の中の1つで、坂本さんと会えるというのも楽しみだったと思っています。製作という部分では、普通の作品は締め切りがまずバッチリ決まっていて、そこまでに何をということがしっかりとスケジューリングされて、進んでいくと思うのですが、この作品は、色々と状況が紆余曲折したこともあって、締め切りもある程度は決まりつつも、そのような中でコロナ禍という予期せぬことも起こり、その結果、結構自由に無限に話をしていたというイメージがあります。こんなに時間をかけて作品を作るっていうことは坂本さんの中ではすごく珍しいんじゃないかなと思いますね。

 

ー高谷さんご自身の中では、時間をかけて作るということは珍しいことだったのですか?

僕にとっては時間をかけて作るということは普通のことで、周りの人もとても大変だと思います()。今も作品を作っているのですが(注:新作パフォーマンス『Tangent』ロームシアター京都20242月初演予定)、台本があって、それに合わせて照明デザイナーが照明を考えて、映像担当が映像を考えてという作り方ではなくて、こういう装置があったら映像は何ができるだろう、また、映像がこういうことができるけど、その時に音はどういう風なことが起こると一番ぴったり来るのかというのを探っていきます。ですので、音から始まるのか映像から始まるのか、照明から始まるのかっていう、誰が最初の一手を打つかで、次が一気に決まっていったり、決まってはいくけれど、ある時点でやっぱりこれでは面白いものはできないか・・・っていうことになり、また違うところで勢いよく進んでいくけれど途中でダメになり、でもこことこれとをくっつければ何とかできるだろうか?という作り方をしているので、無限に時間がかかるんですね。頭の中で考えることを、劇場を使って実際に起こして、わからないことを埋めていきたいんですよね。頭の中で想像できることって限界があるじゃないですか。それで言うと『TIME』も僕にとっては一緒なんですよね。頭の中で全部をがっちりと組んでるわけではなくて、もちろん最終的には進行という意味でのタイムライン、音楽もある程度決まっていますが、そこに出てくる(田中)泯さんや宮田(まゆみ)さんがどういう風に存在するかっていうのはその場で構成されているので、見るたびにいろいろな発見があるし、そういう作品が僕は好きで、面白いなと思います。本当にすべての瞬間が一期一会な感じがします。

 

ー公演の映像を拝見したときに、映像の画面の外にある空気感や世界がどうなっているんだろうと想像を掻き立てられる世界だと感じました。高谷さんがクリエーションという部分で大切にしていることはどんなことでしょうか?

実際の空間でやることで、そのいろんな変化が起こるわけじゃないですか。そういうものを全部見逃さないようにしています。「ここがいい」という部分を再現させることが重要ですが、再現させるためにはまずそこを捉えないといけなくて、捉えるためには、本当にくまなく見ていないといけないなっていうのが1つですね。一番大事なことなんですが、一番難しいですね。すごく面白い瞬間を捉えても、それがもう一度再現できるかどうかが、舞台では問題で、再現させることは、繰り返しになってくるので、もしかしたら再現させることによって、面白さが失われているのかもしれないので、本当にただの繰り返しにならないようなシステムを考えないといけないんだなと思います。坂本さんが能をご覧になった時にすごく感動されたのは、申し合わせ(いわゆる公演のリハーサルのこと。出演者が集まり、稽古や打ち合わせを行う。原則的に、一度しか行われず、本番の前に全出演者が集まっての稽古はこの一度のみとなることが多い)で、少し音出しをして、こうですねという確認をして本番に入るあのシステムがいいなって。それは、400年も繰り返しながらも、ただの繰り返しにならないためのシステムなんじゃないかなと思います。そういうところを坂本さんは面白いと思っていたんじゃないかな。

 

ー再現はするけれど、繰り返しにならないシステムが必要ということですね。

TIME』の場合は、すごく理解してくれている泯さんがいて、すごく理解してくれている宮田さんがいて、すごく理解してくれている(石原)淋さんという3人のコラボレーションのその場で起こることをコントロールしていくということが必要なことだろうなと思っています。 

 

ー最後に『TIME』の見どころと読者の皆さんへメッセージをお願いします。

TIME』は、坂本さんのアイデアで夏目漱石の『夢十夜』や「一炊の夢」(50年の栄華が実は粟飯が炊ける間の夢だったという故事)として知られる『邯鄲』などをベースにしていて、時間に関して、坂本さんが思索を重ねて考えられていたことが盛り込まれた作品です。今の経済を成り立たせているのは一直線上の時間で、1時、2時、3と区切られた時間があって、じゃあ3時に会いましょう、とか、均等割になった時間だと思うんです。けれども、その時間とは違う時間の感覚の捉え方を一から見直すことによって変わってくる世界を想像(創造)する糸口になればいいなと僕は思っています。そういうことを坂本さんがいろいろな本や資料を読まれた中から得たアイデアを詰め込んでいる作品なので、おそらく坂本さんが一番見たかったのだろうなと思っています。ですので、その作品をできるだけ多くの人に見てもらえたらなと思っています。作品から感じとることは自由なので、いろんな感想があっていいと思うんです。退屈だったというのもあると思いますし、緊張したというのもあるかもしれません。その捉え方はそれぞれの人がそれぞれの捉え方をできるような作品だと思います。皆さんに楽しんでもらえたらありがたいなと思います。


▶︎高谷さんのクリエーションの原点とは◀︎

ークリエーションを続けていく上で苦労や悩みもたくさんある中で、ワクワクすること、源となっているのはどんな時ですか?

想像していなかった効果に出会った時ですね。『TIME』で言うと、宮田さんが笙を演奏しながら舞台上に出てこられて、サインウェーブに近い音なので定位しないで動いていくんだけれど、演奏している宮田さんは動いているのに笙の音はどこから鳴っているのか分からなくなるんです。普通バイオリンだったら歩きながら弾くと音も演奏者と一緒に動いていくじゃないですか?そういうのが無いなと思っていると、空間の中で後ろに反射した音がよじれて聞こえきて、それが移動していくんです。すごく抽象的だけれども、そんなふうに音が移動しているということを感じるのは面白いなと思ったり、そういう発見があると嬉しいですし、その場で起こることが大事だなと思っています。

 

ーその場で起こることを大切にということはどの現場においてもですか?

そうですね。いつも僕はそういうことを楽しみにしています。それがモチベーションにつながっているのかな。だから、前もってしっかりと打ち合わせをしてという今の舞台の作り方にはちょっと僕には馴染まなかったりするので、いろいろと迷惑をかけながらちょっとずつ進んでいる感じですね。

 

profile

高谷史郎/Shiro Takatani

19631015日生まれ。奈良県出身。

京都市立芸術大学美術学部環境デザイン専攻卒業。京都芸大在学中の1984年よりアーティストグループ「ダムタイプ」の活動に参加。ヴィジュアル・ワークを担う傍ら様々なメディアを用いたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作に携わる。個人としても世界各地の劇場や美術館、アートセンター等で多くの公演や展示を行っている。

坂本龍一とは、1999年の『LIFE』を皮切りに、実験ライヴ・庭園シリーズ Vol.1Live@法然院》(2005)Vol.2Live@大徳寺・養徳院》(2007)、LIFE – fluid, invisible, inaudible…(2007)、『silence spins (2012)、『LIFE-WELL(2013)、『water state 1(2013) async-drowning(2017)、『IS YOUR TIME(2017)、『async-immersion(2023)など多数の共同制作やコラボレーションを行っている。アルバム『async(2017)のアート・ワークも担当。

photo:Hirofumi Miyata/interview&text:Akiko Yamashita


【公演概要】

タイトル

シャボン玉石けん特別協賛

RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI TIME

日程・会場

東京公演:2024328()414() 新国立劇場 (中劇場)

京都公演:2024427()428()  ロームシアター京都 (メインホール)

音楽+コンセプト 坂本龍一

ヴィジュアルデザイン+コンセプト 高谷史郎

▪︎出演
田中泯/ダンサー

宮田まゆみ/笙奏者

石原淋/ダンサー

能管 藤田流十一世宗家 藤田六郎兵衛 (録音:2018 6 )

▪︎公式ホームページ

https://stage.parco.jp/web/play/time/

(2024,01,18)

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